集大成物件

集大成物件


 私も色々な街を歩いて様々なハリガミを見て,ちょっとズレてしまったようなハリガミについては失礼と思いながらもずいぶんとネタにさせてきてもらっているわけですけれども,そのズレすなわちツッコミどころというのは,だいたいひとつの物件について一ヶ所か二ヶ所くらいなわけなんでした。一見多数のズレがある場合でも,その傾向というのはある程度似通っているんでありますね。

 ところが,今回の物件はどうでありましょうか。傾向の異なるズレが,テンコ盛りであります。そのひとつひとつのズレは,今までこのページで紹介してきた物件と似ているわけですけれども,それが寄せ集められている。カンバンものの集大成。まるで,このページを見て触発された誰かが「アート」としてわざと作っているようにさえ思えるんでした。
 では,ざっと見てまいりましょう。

 まずは『通交禁止』でありますね。「通交」という言葉はありますけれども,道を通る場合は「通行」ではあるまいかと思われるんでした。ちなみに「通交」を辞書でひくと「国家間あるいは個人間で互いに親交すること」だそうで,すなわち「通交禁止」は「鎖国をしなさい」あるいは「ひきこもりなさい」ということになるわけでした。ならんか。
(参考:修正物件

 そして最近の物件でも出てきた『ここわ』であります。本文のツカミとしては最適でありますね。「これは本腰を入れて読まねばならんな」という気持ちにさせてくれます。さらに最後のところで『火事は』と普通の使い方をしているあたりもさすがでありますね。
(参考:わは物件

 さらに「即座に正解が言えますかシリーズ」として『測溝』が出てきております。間違いが即座にわかりますか。もちろん正解は「側溝」。溝を測ってどうするのか。地味ながら,こういう小ネタもきちんとおさえております。
(参考:小ネタ物件28ジマン物件

 続いて,『歩かないでくださいケガをしても』と,これも比較的地味な「句読点のない文章」で注意をひきつけて「ふん。ありがちだな」と油断させておいて,どーんと『責任はいたしません』という大技を放つわけであります。
 油断しているアタマに,この大技は効きます。「それを出すか。ここで」と,思わずふきだしてしまうわけですね。
(参考:定番物件

 そのあとも「句読点のない文章」は続き,『我が町を皆んなで守ろう清潔にゴミを投げ捨てるな!!』と,「いつの間にか口調が変わるシリーズ」へと進んでいくんでありました。
(参考:人格物件

 そしてその直後のビックリマークの角度はどうでありましょうか。
 どう書くとこういう角度になるのか。左利きの人が書くとこうなる可能性もあるかなと思いつつも,やはり意識的に書かないとこうはならないのではあるまいかと思うんでした。
 あるいは,卍に対して逆卍があるように,このビックリマークも逆のものには特殊な意味があるのかもしれない。ご存知の方はご一報を。
(参考:ビックラ物件

 そして最後にもう一度読み返してみると,タイトルが「通交禁止」で始まるにもかかわらず結論が「我が家から火事は出さない」であるというあたりで,うーむとうならされるわけなんでありますね。

 ということで,このハリガミというかカンバンは,もはやアートであると,そういう気持ちになってくるわけなんでありました。アートでありながら,普段,目の端でしかカンバンを読まない人にも「ここを歩くな」「ゴミを捨てるな」「火の用心」という「カンバンとして伝えたいこと」がきちんと伝わるという,すばらしい物件であると思われるんでした。

 このカンバン作者,かなり「できる人」でありますね。この人の作品が他にもないか,この近所をまた探してみなければなりますまい。

「集大成」は新潟市・逢谷内4あたり。