ハイムバッハ国際ギター音楽祭

根本隆司  

 オランダやベルギーに近いドイツの西方、ライン河左岸のアイフェル丘陵にある小さな観光の町ハイムバッハで、9月4日〜10日の一週間にわたりギターとオーボエの講習会を兼ねた音楽祭が開催された。プロデュースはアーヘン音楽大学教授の佐々木忠氏。ソロとアンサンブルのレッスン、レクチャー、講師と特別ゲストによる連夜のコンサート、受講者によるコンサート等盛りだくさんの内容であった。ギター講師は佐々木忠(主任講師)、トーマス・ミュラー=ペリング、原善伸、ハンス=ヴェルナー・フッパーツ。ギターアンサンブル講師として佐藤達男、田代城治、中根康美。オーボエ講師としてベルント・ホルツ。他に特別ゲストのデイヴィッド・タネンバウムも指導に参加した。コンサートには上記講師の他リュートのオリバー・ホルツェンブルク、ピパのジンシャー・リー、ギターのアンスガー・クラウゼ、ヴァイオリンの佐々木美奈が出演した。

会場となった
ハイムバッハ城

オリバー・
ホルツェンブルク
(リュート)

ジンシャー・リー
(ピパ)

 日本からのツアーには4人の講師を含め二十数名が参加し成田からアムステルダムに向かった。デュッセルドルフあたりから現地入すればよさそうなところをオランダ航空を利用したのは、出来るだけ経費を押さえて日本から参加し易いようにとの佐々木教授のあたたかい配慮があったに違いない。わざわざアムステルダムの空港まで出迎えに来ていただいたり、ハイムバツハに着いた晩のバーベキューパーティが教授の自己負担であった事などからも、その人柄が伺える。一行はアムステルダムで1泊し観光を楽しんでからバスでハイムバツハに向かった。
 ハイムバッハは観光地とは言っても日本のそれと違い、俗化されずに昔の佇まいを遺した美しい町であった。すぐ近くの湖の東端から続く川が小規模なダムによって小さな流れになり、北へ向かい大きくカーブし始めたあたり、川と右岸にすぐ迫る山(丘というべきか)との間にある小さな町である。川沿いの小さな丘の上に立つ古城が音楽祭の会場であるが、内部は整備されていてイベントに使いやすい大きな部屋がいくつかあったり、別棟に宿泊施設があったりする。周囲の自然も含め、一週間の音楽三昧に最適の環境であった。


佐々木忠・美奈父娘の
コンサート


佐々木忠のレッスン

右:T.ミュラー=ペリング
左:H=W.フッパーツ

 今回の講習会ではギターの受講者は4人の講師のレッスンを一回づつ受けられたし、希望者はタネンバウムのレッスンも受けることが出来た。各自はレッスンの予定を自分で決めて、それ以外の時間は個人練習、アンサンブル練習、ショッピング、散歩、食事、飲酒等、自由にハイムバッハでの生活を楽しんだ。日本からのツアーは中日の7日にボンとケルンへ観光に出かけた。ケルンではギター専門店の「フィアトマン」に立ち寄り、お茶をご馳走になりながら楽譜等を買い求めた。8、9の両日には逆に「フィアトマン」がハイムバッハに出張販売に来た。
 音楽祭初日4日のコンサートはベルント・ホルツと佐々木忠によるオーボエとギターのデュオである。このデュオは昨秋日本でコンサートを行っているし、CDも輸入盤で出ているのでおなじみである。しかしこのコンサート会場は実に良くギターの音を響かせてくれる。オーボエに負けることなくギターがとても良く聞こえる。そのため二人の音楽の調和の程がよくわかり心地よい。
 翌5日はリュートのオリバー・ホルツェンブルクと、ひき続きピパのジンシャー・リーのコンサートである。ホルツェンブルクは翌日午後からのレクチャーでバロック音楽の演奏法についてわかりやすく説明していたが、当夜は13コースバロックリュートを用いてヴァイス、コハウト、バッハを演奏した。中国・朝鮮のリュート属弦楽器のピパは思いのほか音量があるが、トレモロを多用し、ふんだんに特殊奏法を折り交ぜながらのダイナミックレンジの広い演奏は、リュートと対照的でもあり興味深かった。

右:原 善伸
左:デヴィッド・タネンバウム


ケルン・ギターカルテット
(左から中根康美、田代城治、佐藤達男、原 善伸)

 6日はトーマス・ミュラー=ペリングのソロと、アンスガー・クラウゼ、ハンス=ヴェルナー・フッパーツによるギターデュオである。地元人気ギタリストの登場とあって70人程入る会場は満員となる。ミュラー=ペリングの演奏はさすが歴史ある音楽の国ドイツでじっくり作り上げられた腰の座った音楽だ。クラウゼとフッパーツのデュオは、ブローウエルのミクロピエサスの他はクラウゼ自身の編曲でバッハ、ブラームス、モーツァルトを演奏したが、いかにも楽しげに弾いた。アンコール曲のオチャメな演奏ぶりが聴衆の笑いを誘っていた。
 7日は受講者による演奏に続いてメインゲストのデイヴィッド・タネンバウムの登場である。トゥリーナ、武満、ピアソラ等多彩なプログラムだが、速めのテンポで聴衆をグイグイ引きつけたり、ややオーバー気味だが絶妙なルバートで自由自在の音楽表現をするなど、さすがである。
 8日は受講者による演奏に続いて佐々木忠・美奈父娘によるヴァイオリンとギターのデュオである。パガニーニ、ジュリアーニのオリジナルの他、ピアソラ、サラサーテが演奏された。特にサラサーテは熱演であった。佐々木美奈はまだ若いので今後の成長が楽しみである。いつか日本で父娘コンサートを行って欲しい。
 9日は受講者による演奏に続いてケルンギターカルテット(原善伸、中根康美、佐藤達男、田代城治)のコンサートである。日本からの参加者はこの4人の方々には大変お世話になった。アンサンブルの指導の他、レッスン時の通訳、ツアーの添乗員代わり、その他いろいろとアドバイスを頂いたりした。忙しい中でのコンサートで大変であったはずだが、それを感じさせない完成度の高い演奏であった。やや地味な曲が多かったが、スピークスのアイリッシュフォークメドレーやデュアートのアメリカーナ等が楽しめた。
 10日は受講者によるコンサートだけが行われた。今宵はオーボエとピアノ、オーボエとギターが各1組、ギターソロが11名の出演であった。他にも受講者は多数いたが、希望者のみが演奏した。
 一昨年「アーヘン国際ギター週間93」を成功させた佐々木教授が今年はハイムバッハに会場を移し、日本から多くの人が参加できるようにと原善伸氏の協力を得て開催された今回の音楽祭だが、教授は今後毎年続けたいお気持ちのようだ。又ケルンでのギターコンクール開催を計画しておられるようで、最近の演奏面での充実ぶりとあわせて今後いっそうの活躍が期待される。


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