コンサート出演の心得

荻 原 亜 希  

 今年も「オーディション合格者によるコンサート」に無事出演することができました。これも、私の精進と先生のご指導の賜物です。
 今回、だいしホールに立ったのは2回目ですが、先回同様にあることを感じました。この数年人前で演奏する機会を重ねる毎に、感じていることでもあります。それは、たくさんの聴き手へ向けて演奏するのは楽しいということです。
 私はよく、「荻原さんは緊張しないでしょ」といわれますが、緊張はします。ステージに上がる前は心臓がバクバクして手がよく動かなかったり、息もうまくできなかったりします。でも不思議なことに、本番で自分の番が来て、ステージへ向かって足を踏み出した瞬間から、緊張は気にならなくなるのです。というより、緊張している場合でなくなるのです。
 私は、ステージへ出てお客さんへ向けて礼をする前に、必ず会場全体を見ます。お客さんの気?を感じ取るのです。お客さんから少しパワーを頂いているのではないかとも思います。会場全体を見渡すと、少し落ち着きます。落ち着くというよりも、もう逃げ場はないと確信するわけです。これだけのお客さんを前に、もう腹をくくるしかないと。
 そして、イスに座ります。それから足台を自分の高さに調節して、(これはとても重要です。いつも練習している高さと違ったりすると、弾いているときに違和感があって、不安要素となって、演奏中に雑念がはいるのです)それから、一息つきます。深呼吸。そして、目を開け、覚悟を決める。そして、曲のイメージを呼び起こし、第一音を弾く。
 曲の途中もさまざまな雑念が頭をよぎりがちです。そこで大事になってくるのが、日ごろどれだけ、曲に向き合っているか。曲の中でのイメージが確かであれば、弾いている間中、その世界へトリップできるわけです。
 今回私が弾いた、ヴァイスの「パッサカリア」の場合は、教会をイメージしました。教会で起こる人間の日常です。悩みがある人の祈りや、教会の周りで村の人が踊っていたり、結婚式があったり、天使が天国へ上っていったり、などなど。私はキリスト教徒ではないので、ほんとのところはわかりませんが、私のイメージするバロック時代、教会の有様、人々の生活を、曲にのせてイメージしてみました。
 そんなことを考えて臨んだ本番は、空想の世界へトリップし、とても楽しめました。音の掛け合いが、人々と天使の掛け合いのような感じがして、私は物語の観客として楽しめたんです。だいしホールは、演奏しているあいだ聴衆の顔が見えません。スポットライトで照らされたステージの板が見えるだけ。それが余計にいいですね。人の顔が見えると、雑念が入りますから。そんなこんなで、今回も集中して演奏することができました。
 もうひとつ、私が演奏に当たって心がけていることがあります。それはエンターテイメント性を忘れないことです。演奏だけじゃなくて、目でも楽しませること。やっぱり、ステージには「花」がないと。女性は特に、華やかに着飾ることができますからね。それも楽しみの一つと思ってもらえるよう、「花」を添られるよう、工夫していきたいと思います。非日常を味わえるのは、自分も楽しいし、双方にとって良い刺激になると思います。

 【おまけ】
 自分が好きな曲を弾いていると、楽しい。そして、その音楽の力を、他の人と共有できたら、他人も少し幸せにできるかも知れない。演奏会はそんな小さな奇跡の可能性が潜んでいると思います。だから、私は人前で演奏することを続けていきたいと思うし、曲を自分の歌として歌えるように、また練習に励みたいです。
 思うような音がでなくて面白くない日もあるけど、ギターを弾いていると癒されます。ギターに興味のない人にも、音楽の力が伝えられるような演奏者が目標です。


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