ワンポイントアドバイス 

5 腱鞘炎

 第81号のワンポイント・アドバイス 3(力を抜くには)で書いた内容と一部重複しますが、わりと重要なことなので取り上げます。ギターの演奏や指導を仕事としている人の中でも、ときおり腱鞘炎で困っている人の話を聞きます。また今回の山本さんのように、当教室の生徒の中でも指や手を痛める人がたまに出ます。山本さんの場合は左手親指でしたが、右手親指だったり、人差指や中指だったり人それぞれです。共通して言えることは、無理をした状態を続けていた事が悪かったと思われます。
 左手には(セーハの時などは特にそうですが)つい力が入ってしまいますが、ちょっとつらいが我慢して押さえ続けようとか、鍛えるためだから根性で弾ききろう、とか考えてはいけません。すぐにギターから手を放してください。力の入ったままの状態では、いくら練習しても練習にはなっていないと思ってください。力を入れて押さえなければ音が出ないという場合は、左手全体の位置や形、親指の位置、押弦する指の向きや指板上の位置等が悪いからだと思われます。悪い状態をいくら長く続けても、練習にはならないのです。
 またスラーの練習で指を痛めることもあるようです。スラーはテキスト2冊目の28ページで習いますが、たたくスラーもひっかけるスラーも力で音を出そうとしてはいけません。そう力を入れなくてもちゃんと音がでるよう合理的なやり方がありますので、よく聞いてください。そうです、せっかく先生がいるのですから、遠慮なく何でも相談してください。そして合理的な手の形や指使い、力を抜いた押弦等による良い状態での練習を心がけてください。
 次に右手についてですが、大きな音を出すためには力を入れて弾けばよいと考えがちですが、これも間違いで腱鞘炎になるもとです。力を入れなくても大きな音を出すには、これまたコツというかやり方があります。その方法はレッスンの中で個々に進度に応じて指導しているわけですが、頭では理解しても実際指が体得できるかは別で、時間はかかると思います。焦らず無理をせず、少しでも指や手がおかしいと思ったらギターをおいて休んで下さい。
 力を抜いて演奏するということは、単に腱鞘炎にならないようにするためだけではなく、上達のためにも絶対に必要なこととなります。最初に「わりと重要なことなので」と書いたのはそのためです。力が抜けていればポジションの移動などもスムーズになるし、難しい曲も弾けるようになって来ます。
 私自身のことを言いますと、普段は右手も左手もかなり力を抜いて弾いているつもりですが、ある難しい曲を弾く場合、その曲の終わり頃になると左手がつらくなってしまいます。そこでこの曲を練習するときには、一回目は音になっていなくてもよいからかなり力を抜いて弾きます。そして段々指を馴らしてから普通に弾くようにしています。そんな中で希にですが、かなり力の抜けた状態で弾ける時があります。「ああ、いつもこういうふうに弾けたらなあ。」と思いましたが、結局まだ練習が足らないと言うか、その曲を弾きこなす実力がまだ無いという事なのでしょう。ちなみにその曲は20年位前に暗譜している曲です。
 そんなわけで私も常に「力を抜こう、力を抜こう」と思って練習しています。世界的に活躍しているある日本人ギタリストが何年か前に新潟で演奏会をした時、バッハの組曲を弾き終えてステージの袖に戻って来て一言、「いやあ、わかっていてもどうしても力が入っちゃうんだよね。」と言っておられたのを思い出しました。


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