新潟のギター事情

リレーエッセイ 100

 新潟に移り住んで23年になります。月日の経つのは早いものです。歳をとるほどに一層そう感じるようです。「1年の長さは10歳の人にとっては今まで生きてきた長さの1/10ですが、40歳の人にとっては1/40なので、その違いからそう感じるのだ。」と何かに書いてあるのを最近読みました。
 東京生まれの私が新潟にやって来たのは、もちろんギター教師になるためでした。「東京は人口は多いけれどギターの先生も大勢いるので、地方へ出ないとやっていけないのでは……」と恩師の橘川恭則氏には言われていたし、親元を離れて1人で生活をしたいという気持ちもあり、また東京の「どこへ行っても人、人、人……」の生活にもうんざりしていたのも理由の1つでした。
 新潟というと関東の人達のイメージでは、酒や食べ物(魚やお米)はおいしいが、冬は雪ばかりのたいへんなところだというものでしょう。実際、テレビの関東甲信越地方の天気予報では、冬の新潟県はほとんど毎日雪のマークばかり。関東では雪の日と言えば1年で最も寒いし、交通はマヒするし、子供たちは喜ぶけれども最悪の日ですね。それが新潟ではほとんど毎日なのだから、とんでもないところだと思われているでしょう。
 しかしたしかに山沿いの地方はたいへんでしょうが、新潟市などの海岸沿いの地方ではそうでもないのです。雪は降ってもあまり積もらないし、積もってもすぐに重機により除雪され、車もあらかじめスタッドレス・タイヤに変えてあるし。まあもちろん降らないに越したことはありませんが……。
 人口約50万の新潟市には公民館やコミュニティーセンターなど、サークル活動ができる施設が40カ所以上あって、多くのギター・サークルが合奏を楽しんだり、講師より個人的に指導を受けたりしています。
 このようなサークルが毎年10月に、市外近郊のサークルや大学・高校のクラシック・ギター部も含めて一堂に集まり、合奏による演奏会を行っています。国内外で活躍しているギタリストによるゲスト演奏もあり、聴衆の毎年の楽しみとなっているので、キャパシティ525人のホールは満員の盛況です。「ギターの夕べ(新潟市ギター合奏連盟主催)」と称するこの演奏会は今年22回目を数えます。
 このように新潟では愛好者の底辺は広く、他の同規模の都市に比べ、ギターが盛んだと思いますが、これまで内外の主要コンクールに挑戦するような人は、あまり出てきていませんでした。そこで数人の新潟在住ギタリストが集まり、「ギタリスタス新潟」という会を作って、特に上級者のレベルアップをはかる目的で「アマチュア・ギターコンサート」という演奏会を企画し、平成8年春に第1回を開催しました。これは広く一般に参加者を募り、事前の選考会にて合格した人がコンサートに出演できるというものです。
 会場の「だいしホール」は、ドイツのアーヘン音楽大学教授の佐々木忠氏が「いろいろなところに演奏に行くが、ヨーロッパでもこのような素晴らしいホールはなかなかない」と言われたほどで、キャパシティ274人という大きさもギターにとって最適のホールです。ギター教室の発表会の会場としては借りることができないので、アマチュアの人にとってここで演奏できることは貴重な機会でもあるわけです。
 このコンサートは現在その名称を「オーディション合格者によるギターコンサート」と改め、着実にそのレベルは向上しており、特に近年若い人の参加が増えました。若さを武器に鍛えたテクニックでバリバリ弾きこなす若手と、じっくり音楽の魅力を表現する大人達がひとつのステージで切磋琢磨。聴衆にとっても聴きごたえのある演奏会になってきました。
 若い人にはこのオーディションやコンサートでの経験を活かし、内外の主要コンクールをめざすなど、さらなる飛躍をしていってもらいたいものです。
 そしてさらに期待することは、この若手の中から将来の新潟のギター界を引っ張っていってくれるような人が現われてくれることです。というのも今、新潟で演奏・教授活動をしている人はたいてい40代以上、次の世代が育っていません。でもこれに関しては楽観できるようになったので、ひと安心しているところですが。
 話は変わって、新潟では一昨年までは地元ギタリスト以外の演奏家によるコンサートはあまり開催されていませんでした。そこで私達「ギタリスタス新潟」がこれまでに荘村清志(平成11年)、稲垣稔(平成12年)の各氏のリサイタルを主催してきました。ところが昨年は、木村 大、村治佳織、大萩康司、アムステルダム・ギタートリオと、一気に活気づいてくれました。新潟のギター界もおもしろくなってきました。
 話はさらに変わって、インターネットもだいぶ普及してきたので、新潟でもホームページを開設するギタリストやギター愛好家が増えてきました。私も2年前より「根本ギター教室ホームページ」(http://www.on.rim.or.jp/~nemoto)を開設し、演奏会の情報などを載せたり、掲示板を設置し生徒同士の交流の場として利用したりしています。
 新潟の最新ギター事情をインターネットにてぜひご覧ください。


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