ガレ物件



 私の場合,街の中心部へ出かける場合にはあんまり車を使わないんでした。天気がよければ自転車であるし,雪が降ればバスに乗ったり歩いたり。
 車に乗っていく場合は,中心地から数キロ離れた大きな駐車場のある施設に車を止めて歩いていったりするんでした。まぁ,歩くのは苦にならないしむしろ歩くのが目的になってしまったりするし。

 それというのも,私はああいうゴミゴミしたところで駐車場探しをするとか駐車待ちをするとかいうのがもう大嫌いなんでありますね。その上お金を払って停めさせていただくなんていうのは,あほらしいことこの上ないと思ってしまう性質なんでした。
 さりとて路上駐車などというのはできるはずもなく,やむを得ず路上駐車するときなどはもうビクビクし通しだったりするんでした。まぁ要は駐車技術がなくて気が小さいということなんでありますけれども。

 そんなわけで,本編とはそれほど関連の無い長い前フリのあとで最初の物件であります。
 どの順番で読めばいいのかよくわかりませんけれども,羅列するならば「ガレジ事務所(前)出入り口につき駐禁止めないでね…」ということなんでした。

 まぁ,言わんとしていること自体は中身を読まなくてもわかるわけで,「この前に車を停めるな」ということでありますね。ただ,じっくりと眺めていると,読む順番とかハリガミの成り立ちとかが逆に気になってくるんでした。

 おそらくはこのハリガミのオリジナルというか一番最初は「事務所出入り口」でありますね。
 そこからあれこれと,こう書いたほうがよかっただろうかとか,この情報も必要だとか,傍線がいるなとか,いやここにはカッコをつけないととか,色んなことを考えたり試行錯誤をした末にちょっと支離滅裂になってしまい,最終的に「止めないでね…」という泣き落としに至ったんであろうかと思われるんでした。

 あるいは,右と左でパートが分かれていて,右は「ガレージ・事務所前 駐禁」と大人向け,左は「出入り口につき止めないでね…」という子ども向けの書き方だったりするんでありましょうか。
 子どもは車を停めたりしないかもしれませんが。


 こちらは「ヨコノガレ」を貸しているようなんでした。
「ヨコノガレ」とは一体何であるのか。やはり横に逃れるということなのか。それをどうやって貸してくれるんでありましょうか。秘伝のサイドステップを教えてくれるんでありましょうか。よくわからないけど一度借りてみたいものであります。
 あるいは「ヨーコさんの彼」を貸してくれるのかもしれない。それは借りなくてもいいか。

 ということではなく,やはりこれは「ヨコノガレージ」さんであろうと思われるんでした。
 以前に「美濃ガレー」というのもありましたけれども,同じ系統でありますね。やはりオーナーとしては「ガレージ」は隠しても名前の方は隠したくないというのが人情なんでありましょうか。

 まぁ確かに名前の方がわからないと連絡のとりようもないのかもしれませんが。
 でもだからといって「ヨコノガレ」と言われてもそれを借りたいかどうかというとその辺も微妙であります。ガレージだと思って借りたらヨーコさんの彼がモジモジしながら付いてきたりするかもしれないし。誰だ,ヨーコさんって。


 こちらは,手前のコンクリ部分が車が何台か停められるスペースであって,そのわきに長い建物が建っているんでした。そしてそこには素人っぽくペンキで(株)とだけ書かれているわけでした。

 おそらくはこのスペースの所有者である「株式会社××」さんが,部外者駐車禁止の意味合いをこめて自社の名前を書くことにしたんだけれども折からの不況でプロに頼むことはできず,自分たちで何とかしようと思って書き始めてみたけれども「やっぱり難しいです」ということになったんではあるまいかと思われるんでした。

 その辺の情景というのを想像すると,なんだか微笑ましい感じでありますね。いやホントにそうなのかどうかというのは知りませんけれども。

 あるいは中断したのは別の理由かもしれないでありますね。
 いざ書き始めてみたけれども,ふと「あっ。そういえばこれ,隣の建物じゃん」と気づいてしまったとか。
 やはり微笑ましいでありますね。そうでもないか。

「止めないでね…」は新潟市中央区・医学町通1番町あたり。
「ヨコノガレ」は新潟市中央区・医学町通1番町あたり。
「(株)」は新潟市中央区・医学町通1番町あたり。