ズーム物件



 キョロキョロしながら街を歩き,気になるものがあったらそれをじっくり見つめるというのが路上観察者であります。私もその路上観察者の端くれであると思っているわけでした。

 しかし私の場合,視界に入ってもあえてそれを見つめない対象というのがあって,それが何であるかというと,人間なんでした。むしろ,人がいると目をそらしぎみ。面白くても,見つめちゃ失礼なような気もするし。子どもを見つめてると通報されそうだし。相手がヤクマルさんだったりすると翌日信濃川に浮いてるかもしれないし。

 たまに「人間観察が趣味です」という人もいたりしますけれども,それとは対極でありますね。そういう方は失礼でなく人を見つめる術というのを持っているんだろうなぁ,と思うんでした。

 という長い前置きの後ですが,上の写真。
 例によってキョロキョロ歩いていると,人の姿を視界の端におぼえたわけでした。それで,あえてそちらの方は凝視せずに近づいていったわけですけれども,近づくにつれてなんだか違和感を感じるんでありますね。立っている場所とか姿勢とか大きさとか。

 それでいよいよ近づいてくると,衝突回避のためにその人物を見ないといけないわけで,そこで初めて視線をハッキリとそちらに向けたわけでした。
 すると,その人物はこんな感じの人なんでした。

 その人は,どうやら人形だったんでした。小さ目の,でも子どもとしては等身大の人形。それが店のショーウィンドーに手をついてのぞきこんでいる感じにディスプレーされているようなんでした。

 しかし,うまいこと作ってあるものであります。このお店の人自作なのかこういうのが売ってるのかマネキンの流用なのかわかりませんけれども,けっこう近づいても気づかなそうであります。
 子どもなのに髪の毛が白いのは,人形であるということをあえてアピールしているんでありましょうか。

 でも,だまされてはいけないでありますね。人間かと思ったら人形だったと思って近づいていくと,実は人間だったりするのかもしれない。
 近づいたらギギギギと首がこちらを向いて,歯のない老婆が邪悪な笑顔で「いらっっしゃぁ〜い」とか言ったら,その場で失神してしまいそうであります。


 こちらは,以前にも「おトク物件」などで何度も物件になっている「永久閉店のお店」であります。6割引あたりから7割引,8割引,9割引と来ていたので,このあとはどうなるのかと気にしていた物件でありますね。
 で,久々に行ってみたら,大きなカンバンはそのまま変わりがなかったようなんでした。さすがに「9割引」より先には行けなかったんでありましょうか。
 などと思いつつ真ん中の方を見ると,ハリガミも多数あったんでした。

 

 3点!!がたったの千円だったり五百円処分だったり。さらには300円のハリガミやら2千円買い上げごとに1点進呈というハリガミなども。この写真を撮ったのは父の日少し前だったわけですけれども,男物はどれでも3点!!で千円のようであります。

 いったいいくらの品物が3点!!で千円なのかわかりませんけれども,まだまだ売り尽くすおつもりのようでありますね。すべて売り尽くすまでは閉店できないんでありましょうか。早く楽にしてあげたいような気もしますけれども,楽になるつもりはあるのかどうか。


 窓越しに撮っているのでなんだかヘンな斜線が入っていますけれども,これは某建物の内部から撮った隣のビルの屋上なんでした。
 屋上といっても3階か4階程度のビルであって,フェンスも無い,人が上がってくることは想定されていないような屋上スペースであります。

 フェンスは無いですけれども,屋上の周囲のフチは一段高くなっているわけでした。で,そのフチの内側に何か丸いものがいくつかあるようなんでありますね。


 それがこの輪っかなんでした。電車・バスの吊り革のような輪っかが屋上にいくつか。

 これは,何なんでありましょうか。まぁ,建築関係の人にきけば常識的なことなのかもしれないですけれども,素人には不思議な輪っかであります。

 屋上に何か大きなモノを置いたときに固定するロープを通すための輪っかか? でもそれなら周囲すべてに無いといけない気がするし,屋上に置く大きなモノとは何なのかわからないし。

「甲子園出場おめでとう」とかの垂れ幕をかけるための輪っかか? でもここは高校じゃないし。

 北京オリンピックの体操代表がひそかにここで吊り輪の練習をするための輪っかか? でもここで練習しても本番で役立ちそうもないし。

 引越しをするときにここにロープを通して,巨大ロボットがそのロープを持ってビルごと移動させるための輪っかか? でも巨大ロボがいるくらいならもっと効率的な引越しができそうだし。

 もっとまったりとした使用法なのかもしれないでありますね。
 晴れた日の昼休みになると社長以下従業員がこの屋上にやってきて,仰向けで寝て各自が輪っかを握る。そして雲の流れる空を見て
「ああ。こうしていると会社が空を飛んでいるようだね」
「そうだね」
「なんだか飛んでいってしまいそうだけど,この輪っかをつかんでいれば安心だね」
「ホントだね」
「ぼくたちはこの輪っかでつながっているね」
「もちろんさ」
というような会話をしながら食後のひと時を過ごすのかもしれないんでした。ああ,いい会社…でもないか。

 あるいは,ここは天国の下界支部新潟出張所であって,天使の人たちはここで下界人に変装して,下界にまぎれこんでているのかもしれないでありますね。
 そして,下界人に変装するときには頭の輪っかを外して,この屋上に干しておくのかも…しれなくないか。

「レプリカント」は新潟市東区・藤見町1あたり。
「永久閉店」は新発田市・住吉町1あたり。
「輪っか」は新潟市中央区・上大川前通7あたり。