仁義なき物件

仁義なき物件



 電柱広告というのは基本的に手書きではないし,書かれている情報としては店名と簡単な所在地だけという場合が多く余計なことが書かれていないため,多く目にする割には意外と物件にはなりにくかったりするんでした。

 ということで,上の物件。某皮膚科医院の電柱広告であります。
 書かれている内容としては特段変わったことはないわけですけれども,変わっているのはその形状というか状況なんでした。

 おそらく最初は普通の電柱広告だったんであろうと思われるわけですけれども,そこへ新たな電線を引く必要ができて,広告お構いなしに線を上から引いてしまったようでありますね。それで,負けじとさらにその上に広告を掲げたということだと思われるんでした。

 元の広告ももはや撤去不能なようで,ヘタに撤去しようとすると「尻切れ物件」のようになってしまうと思われるわけで,広告を残そうとしたらこのような2層構造もやむを得ないことであるようなんでした。

 …しかし,これはどうなんでありましょうか。
「電柱ってのはなぁ!電線を支えるのが本当の役割なんでぇっ!広告なんてぇチャラチャラしたもんは,こうして隠してやらぁ!がははははは」
「ふん。時代遅れな!この情報化時代においては,広告あってこその電柱なのですよ!無粋な電線など,広告で隠してしまえばよろしいのですよ。ふふふふふ」
というような感じで,電柱工事業者と電柱広告業者というのは日ごろから火花を散らし,抗争に明け暮れていたりするんでありましょうか。

 抗争がエスカレートすると,物件の電柱などは2層どころか何十層にもなっていつか地球を一周しそうでありますね。しないか。

 あるいは,これはあたかも電柱が脱皮をしているかのようでもあるですね。あらかじめそういう意図で作成された広告なんでありましょうか。皮膚科のカンバンだけに。違うか。

 しかし,そもそも電柱というのは誰の所有物で誰にどういう権利があって誰が管理しているのか。電力会社なのか国なのか自治体なのか電柱によって違うのか電柱の部位によって違ったりするのか。その辺は調べればわかりそうな気もしますけれどもメンドなので誰か調べておいてくださいませ(他力本願)。
 電柱広告でも出す立場になれば多少わかるのかもしれないけれども,今のところ出す予定ないし。


 やはり電柱広告でありますけれども,こちらの方は内容がちょっとまぁ,どうなのかと,どうしても思ってしまわざるをえないと言っても過言でないような風情をかもし出しているような気がしないでもないネーミングになっているわけでした。

「やっちゃん」というと,やはりあの頬に十とかメとかの文字が浮かび上がっていて背中などにアートを背負っていて後天的に小指の長さが短かったりする,つまりは道を極める方々,に対するフレンドリーな呼び方を思い浮かべてしまうわけでありますね。

 ここは,そのやっちゃん様たちが通う,専門の英語学園なんでありましょうか。

「やはりこれからの時代,ワシらも海外進出を考えにゃいかんからのう」
「せんせぇー。英語でチャカは何て言うんじゃあ?」
「アホか。おどれは。カタギのせんせぇがチャカなんて言葉知っとるわけなかろうがぁ。せんせぇ,すまんのう。チャカってのはハジキのことじゃあ」
「そんな言葉ひとつひとつよりも,もっとよく使う日常的な言い方を教えてくれやぁ。『何じろじろ見てけつかんのじゃ,コラ。いてまうぞ,ワレ』てのは何て言えばいいんじゃ?せんせぇ」
 などと,和気あいあいとした授業が行なわれているんでありましょうか。

 それとも,生徒はカタギで先生が「やっちゃん」なのか。
「あ,あの…。せ,先生が英語得意なのは15年も外国で暮らしていたからだそうですけど,なぜ外国で暮らそうと思ったんですか?」
「まぁそうじゃのう。暮らそうと思ったというか,暮らさざるをえなかったんじゃけどな。お前らはまだ生まれてなかったかのう。15年前に結構世間をにぎわせた事件があってのう。その犯人は結局つかまらなかったんじゃが,何でだか教えちゃろうか?」
「聞きたくありません」

 あるいは,先生生徒両方が「やっちゃん」なのか。
「おぅ。てめえら。さっそく授業を始めるぜぇ。ビシビシ行くから遅れんじゃねえぞ」
「…なあ,国外逃亡から帰った若頭が張り切ってるけど,ワシらに英語なんていらんよなぁ」
「そこ!うるさいわい!」 パン!
「お,おいっ。テツ! しっかりせえ!」
「ひとり撃たれたくらいでうろたえとるんじゃないわ!」 パン!
「よし。静かになったところで授業再開じゃ。これ,読めるヤツ!」
「…」
「手ぇあげんかい!」 パン!
「…じゃあ,お前はどうじゃ?」
「は,はいィ。ジ,ジスイズ,ア,ボーク」
「ブックじゃ。ボケ」 パン!
「アン,アム…」 パン! 「アイ ハベ…」 パン!
…パン! …パン!
……
「よし。今日の授業は終いじゃ。みんなよくわかったかのう? ……返事が無いのう…」

 まぁ何はともあれ,構成員を減らさないように授業をしていってもらいたいものであります。

※もちろん,本文中の英語学園の描写はフィクションであり,実際は先生生徒ともにカタギの学園であると思われます。多分。
 また,もしこのサイトを「やっちゃん」の方が見ておられましたら(見てないと思いますが),皆様をチャカしているわけではありませんので,チャカを持ってうちへ乗り込んできたりしないようお願いいたします。

「脱皮」は新潟市西区・浦山1あたり。
「やっちゃん」は新潟市西区・青山5あたり。