圧力ホース接続式多段ペットボトルロケット製作記


多段式を作ろう

ペットボトルロケットで多段式に挑戦しようと思ったのは、ずっとまえにNIFTY-Serve模型フォーラムで、沖縄の方が2段式の原理について書き込みされたのをみたときでした。それは本などで見た圧力センサー(注射器)を利用したものより、はるかにシンプルで確実性があるように思えました。また静摩擦力と動摩擦、圧力と摩擦力の掛かる面積の差をうまく利用した方法であり、概念上もいけそうな方法でした。そしていつかやってみようと思っていました。

ブースターもサステーナーもダブルタンク

多段式ペットボトルについて、本などで空中でのバランスが難しいことが書かれていました。またブースターの圧力が無くなった時点で上段が切り離される機構にする場合、ブースターにある程度水を多く入れて長く噴射させるためには、機体を長くして圧力容器も大きくする必要があると考えました。さらにホースで接続するためにはブースタータンクは上にペットボトルの口が無ければならないので、必然的にWタンクに決定。

Wタンクの接続部品


Wタンクの接続は上図のような部品を使います。これはホームセンターに売っているエアー用パーツです。品名は中間ジョイント(袋ナット付き)1/8インチホース用です。エアーパーツのホースを差し込む継ぎ手部品は使いません。空気は水より流動抵抗がうんと小さいので細い内径でも大丈夫です。ペットボトルの底と底を接続する場合、底に蓋を付けて接続する場合と2とおりのやり方があります。蓋を底につけるほうが断然やりやすいです。(工作マットの目盛は2cm方眼)

左の写真は上段Wタンクの接続(底に蓋を付けた)  右の写真は下段Wタンクの接続(底と底をつないだ)

ニップルによる接続部は、液体ゴムか弾性エポキシ接着剤でシール(気密保持)をしました。

圧力ホースによる接続・分離機構

ブースター(下段)とサステーナー(上段)の接続と分離のために、ホースを使いました。初め用意したのが青い網入りの水道用ホースです。地上試験でこれではダメなことがわかり、後で使ったのが黒いゴム製の農・園芸ホースです。ホースの出口には自動車用のチューブレスタイアの虫が下向きに入れてあります。

初め青いホースを使ったときは、圧力を上げて行くうちに絶対抜けてはならないブースターのペットボトル口からも、ホースが抜けそうになりました。またサステーナーもタンクに少しの圧力がかかると抜けそうになったので、摩擦が多く、圧力で膨らみやすいゴム製の園芸ホースにしたら、うまく行きました。



ベンチテスト

耐圧テスト
実際どれだけの圧力で下段と上段が固定され、下段の圧力がどれくらいにまで下がると上段が解放されるのか、地上実験しました。まず下段に圧力をかけていくと2kg/cm2程度でホースは内径いっぱいに広がって、上段を固定します。4kg/cm2までかけると虫を通って上段に空気が流れます。自動車用タイアの虫を使うと上下段に4kg/cm2の圧力差が発生し、これが上下段を固定します。下段を6kg/cm2にすると上段は2kg/cm2。下段を8kg/cm2にすると上段は4kg/cm2です。園芸用ホースの場合はこれに持ちこたえました。

分離テスト
ホース内の圧力がどれくらい下がると、分離するのか実験しました。上段に2kg/cm2かかった状態で下段の空気を抜いていくと3kg/cm2から2kg/cm2差くらいまで下がると、バシュッと瞬間的に上段は離れて行きます。これならうまく行きそう。
なお上段の上についている空気注入口はベンチテストで圧力を調整したり、上段の圧力を計ったりするためのものです。実際の発射では上段の空気は下段から接続ホースと虫を通って入れることが出来ます。

下段にパラシュートを装着

ベンチテストをしているうちに、上段のハカマ部分に下段のパラシュートを収納してやれば、下段は軟着陸で回収できることに思い当たりました。下の写真は打ち上げ前のパラシュートの収納位置と、実際きちんと放出され確実に作動したパラシュートです。下段の重量はさほどではないのですが、低い高度でもちゃんと開傘するように大きめのパラシュート(24インチ)を入れました。シュラウドラインと本体はパンツのゴム紐(ショックコード)でつないであり、パラシュートのオープニングショックを吸収します。

尾翼の大きさと位置

2段式は全体の重心より前方に、上段の尾翼が位置するので、空気力学的安定には十分注意しました。モデルロケット用のソフトを使って圧力中心の位置を調整しながら尾翼のサイズを決めました。ただモデルロケットと違って水ロケットは水の変化で重心が大きくk変わるので、あまり微妙な配置はできません。圧力中心を十分後方に持ってくることが大切!
上段は1リットルボトルで小さめの尾翼を4枚、下段は海岸で拾った韓国製?の1.5リットルボトルで大きめの尾翼を6枚準備しました。そして初めの打ち上げは下段4枚でやってみて、不安定なら2枚追加することに。結局ダミータンクやジョイント、尾翼を含めて14本のペットボトルを使う、とんでもないペットボトルロケットになってしまいました。

機体の諸元

全長1.4m  下 段0.7m  上段0.85m
重量500g  下 段300g 上段200g


上段に1.0リットルボトルを6本と1.5リットルボトル1本を使いました。そのうち分けはダミータンクに1本、圧力タンクに2本、圧力タンクの連結に1本、尾翼に2本、ハカマは1.5リットルを1本。
下段は全て1.5リットルボトルで、圧力タンクに2本、連結に1本ハカマに1本、尾翼に3本(6枚尾翼)です。


尾翼のサイズ     下 段       上 段
ルートチョード    80mm       75mm
リーディングエッジ 125mm       90mm
トレーリングエッジ 125mm       90mm
チップチョード    60mm       50mm
スゥイープバック   20mm       25mm

秒読み 発射直後 分離の瞬間
打ち上げテスト
初めての打ち上げ実験は、東北北陸の梅雨が明けた7月20日に、長岡市藤橋遺跡公園の芝生広場で行いました。
台風の余波か多少風が強かったものの30度を超える猛暑の中でした。水は上段に150cc下段に150cc、圧力は下段に6kg/cm2をかけました。(上段は2kg/cm2と推定される) 立ち会いは、この会議室のYOWさん、YOU3クン(療養中の病院から外泊許可をもらって長岡に)、その友人の篠崎義之さん、とってもスレンダーでチャーミングな小野塚佳代さんの4人がが立ち会ってくれました。

垂直に立てて、リリースレバを握ったところ、800gの重量のせいかおもむろに機体が持ち上がり、約30〜40mの高度で2段目を分離。2段はそのまままっすぐ頂点を向けて上昇。1段目はちょっと上った後、パラシュートを開いて降下。2段目はどんどん上昇し、頂点に達し静止してゆっくり向きをかえ、下を向いてまっしぐらに落ちて来ました。2段目が地面に衝突するのと、1段目がパラシュートで着地するのはほぼ同時。2段目は40m程流され軟着陸、2段目は発射台から3mの舗装のところにソフトトップから硬着陸。ダミータンクがつぶれてへこみました。
2回目。水を上段200cc下段200ccにして、圧力は6kgのまま実験。今度は発射は友人にまかせて、私はカメラを連写モードにして構えました。5・4・3・2・1。やはり綺麗に上昇し、先程より少し上空で2段目分離。2段目は150m程度上昇して降りてきました。それぞれの着地点は1回目とほぼ同じ。つまりきわめて安定した上昇を再現することが解りました。初フライトなので圧力は低めに、水量は少な目に押さえたものの、ほぼ完璧に目的通りパフォーマンスを見せてくれました。2回目の2段目は落下点が高かったせ
いか、ダミータンクは大幅に変形。材料を取り替えないと上部タンクに衝撃が及びそうなのでそれ以上の打ち上げは見合わせました。

立ち会ってくれた4人が
「すごいものを見ることが出来た!」
ととても喜んでくれました。ただ
「2段目にも回収装置を付けてくれ。恐い。」
「1段目パラシュートに見とれていたら2段目が降って来たので驚いた。」
「TVでWRを見たことはあるが、工夫次第でこんなに飛ぶものだとは知らなかった。感激した。」
「2段目は空に消えてしまって、見失った。」
「あんなに簡単な方法で2段式が作れるなら3段4段を作ってくれ。」
という評でした。

そのあとみんなで生ビールと焼き肉で祝杯を上げました。そのおいしかったことおいしかったこと。と〜っても幸せな真夏の一日でした。
そういえば7月20日はアポロ11号記念日。人類初の月面着陸から27年目の日のお話でした。

おわり

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