佐渡を読む!

佐渡は古来より物書きの心を引き付けて止まない所であったらしい。まぁ、来たくて来たんじゃない順徳上皇は別にして、まずはこの人、太宰 治の「佐渡」(新潮文庫『きりぎりす』収録)。かの先生、佐渡を「死ぬほど寂しい所だと聞いている」と書いていますが、よく船の上から飛び込まなかったものです。水は水でも、塩辛いのはお好みではなかったみたいです。時々そういう人がいるようですが厳に慎むように。

それから亀井勝一郎の「佐渡ヶ島」(「亀井勝一郎選集・第四巻」『私の美術遍歴』講談社に収録)。先生、文中で柱の跡しか残っていない国分寺跡(真野町)を訪れて絶賛してます。さすがに先生ほどにもなると、柱の穴だけ見て十分に堪能できるらしい。我々のような凡人には難しくてとても真似ができません。真似ができないと言えば今なお民俗学の世界に大きな影響を残す柳田国男。一度も北小浦の土を踏むことなしにあの有名な『北小浦民俗誌』を書き上げています。まぁ、佐渡には2度ほど来ているのですが、偉いという言うべきか、いい加減と言うべきか。しかもその完成度の高さから民俗誌の嚆矢とされ、民俗学を志す者なら誰もが知るこの『北小浦民俗誌』を、当の北小浦集落の住人たちはほとんど知らないらしい。そんなに長いものじゃないので、ざっと目を通してみるのもいいかも。一応『名著』ですし・・・。

これを書いている時点(1996.4月)で、最近お亡くなりになったばかりであり、そしてご多分に漏れず追悼特集の喧しい司馬遼太郎さんが、『街道を行く』(朝日文庫)の10巻で、佐渡について書いてます。さすがは司馬さん、単なる紀行文に終わらせず歴史知識をちりばめて、優れた読み物になってます。

個人的には「東京もんが、好き勝手んこと言うとる」といった感じであんまり好きではないのだけれど、永六輔だの小沢昭一、江國滋などといった当代一流の面々がその「よそ者」ぶりを発揮して、おもしろい視点で佐渡のあれやこれやを語ってくれるのが東京やなぎ句会編著『佐渡新発見─伝統と文化─』(三一新書)肩の力を抜いて楽しめます。ちょっと癪に障るけどおすすめ。

佐渡博物館編著『図説 佐渡島』(新潟交通)は、カラー図版や写真をたくさん使って佐渡の自然、歴史、文化を紹介する観光ガイドブックの「ネタ本」とも言える本。奇麗に出来ているので、読まずにぱらぱらめくるだけでも十分に楽しめます。佐渡を舞台に小説でも書こうという作家の方や、いきなり佐渡に赴任させられて右も左も分からない新聞記者の方など必携の一冊。¥2,800は高くないヨ。

それから島内の史跡、建造物など歴史の舞台となった個々の地域をカラー写真と分かりやすい文章で紹介しているのが『にいがた歴史紀行 巻17─両津市・佐渡郡─』(新潟日報事業部)。詳細な地図が個々のページについているので使いやすい。おすすめ。しかしたかだかA5版・115ページで¥1,800というのはいいお値段なのですが・・・、写真が多いから仕方ないか。

ところでたいていどこの市町村でも自らの地域の優越性を示すべく、地元の郷土史家を動員して町史、村史(誌)の類いを作っています。まぁ、それらのほとんどが制作者の気負いとご苦労の割に、本棚の増量剤以上の役目を果たしてはいないのが実態なのですが、その中でも珍しくおすすめの町史を2冊。一冊は『佐和田町史─通史編 ─』。佐渡の自然(地質、気候、動物、植物など)についての記述が充実。原始〜古代についても最近の研究成果を用い、しかも記述は全島に及び使えます。もう一冊は『金井町史─古代編─』。町史にしては読みやすい。農民の水利を巡る工夫や争いについてや佐渡の道について詳しい。

今年は2.26事件から50周年・・・、らしい。「らしい」というのは、私もつい最近まで知らなかったから。最近本屋をのぞくとやたらに「北一輝なんとか〜」という本が目立つもんだから、本屋に聞いたら50周年なんだそうで・・・、いやぁそれはそれはということで、本誌も地元(両津市湊)出身の北一輝の本を一冊ご紹介。加藤繁著『北一輝前史─その不思議な目と霊告日記』(加藤繁と北一輝佐渡出版会)明治の佐渡を舞台に、天才児北少年の活躍を描いた小説。普通地元研究家の自費出版本となると、生真面目ではあるが面白みにかけるというのが一般的。この本などもご多分に漏れずそういう一冊・・・。ではあるのだけれど、著者の北一輝を極度に信奉する態度と、人格を忍ばせる説教調の語り口とがあいまって、著者の意図しない所で極めて滑稽な面白みを出しています。北一輝を書いた本だと思わなければかなり楽しめる1冊。

同じく自費出版だけど『佐渡の花』(写真 村川博実、文 伊藤邦男:発行ドンデンの自然を考える会他)は完成度のかなり高い佐渡の植物のカラー写真集。写真はもちろん、地元の風俗・文化を織り込んだ解説は秀逸。

来る前に読むか、帰ってから読むか・・・。とりあえず佐渡にいる間は本なんか読んでないで、佐渡を思う存分満喫してください。


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