30オヤジのひとりごとスペシャル

君は死体を発見したか?



 そう,平成9年1月13日,その日は新潟の冬とは思えないくらいに朝から晴れていたのでした。路上ウォッチャーとしてはこの天気を逃すわけには行かず,10時頃からフィールドワークにでたわけです。予定としては,海岸に沿った路上の踏査。最近は神社関係に興味が出てきたので,栄小学校脇の開運稲荷神社から新潟護国神社までのおよそ3キロを歩いたのでした。その途上の路上物件についてはご近所路上観察ファイルをみてもらうとして,目的地の護国神社で事件は起こったのでした。

 恥ずかしながら,私は神社に詣でるという事がこの30年の間に数えるほどしかありませんでした。初詣にも行きません(ここ数年は都合により新潟大神宮に詣でたりしましたが,今年からはその必要もなくなった)。それで,護国神社なるところにも初めて行ったわけです。近くはしょっちゅう通っているのに入るのは初めてなんで,(へぇ。でかいもんだな)なんて思いながら,あちこちキョロキョロしながら参道を歩いていく。すると参道の中程に「戊辰戦争墓碑」なんて書かれた一角があったんで,(ふーん。戊辰戦争も「護国」なんだね)とか思って,そこに入ってみたわけです。

 で,入ってみるとけっこう広くて,10m×20mくらいの敷地に碑だの墓(?)だのが周囲に並んでいる。真ん中にも何かあって,そこにおばあさんが立っている,というか,お祈りでもしているみたいなわけです。他には誰もいなくて,目を合わせるのも照れくさいんで,私は目を合わせないようにして周囲の碑を見て回っているんですが,最後にその真ん中のものを見るつもりだったんですね。つまりは,碑を見ながら,そのおばあさんが立ち去るのも待っていたわけです。が,なかなか立ち去らない。それどころか,ピクリとも動かずに頭を垂れている。私はその時にはおばあさんの背後にまわっていて,(すごい集中してお祈りするもんだな。さすが年の功。)と思って,初めてそのおばあさんをまともに見たわけです。すると!!

 よくは見えないんだけれど,頭の上にビニールひものようなものが見えている。さらに,それが首の方にもまわっているように見える!…その瞬間,私の後頭部から背中にかけて,ゾクゾク〜ッとしたものが走ったわけです。もう,直感的にわかってしまったわけです。「首吊ってる。」

 でも,もう直感ではわかってしまっていることなのに,理性では否定しようとするんですね。「いや,ひもが首にかかっているのは錯覚で,見える位置が悪いんだ。なんでかといえば,足は地面についてるじゃないの。あれじゃ自殺はできんて。」確かに,足は地面についていて,かかとまでついている。ように見える。しかし,心の中ではそれをまた否定する。「じゃあ,なんでさっきからピクリとも動かないんだ,なんで腕がだらりとさがってるんだなんで異様に顔色が白いんだぁっ!」

 声をかければはっきりするんだろうけれど,それは怖い。ましてや近づいて確認なんかは出来るわけがない。あなたできますか。その次に考えたのは,自分の行動。死んでるという確証がないし,気づかなかったことにしてこのまま立ち去っても,罪にはならないだろーな。でも,本当に死んでて,あとから新聞なんかで事件を知ったら,後味悪いだろーな。PHSも持ってるし,110番しようか。でも,電話したあとでばあさん動き出したらどうしようか。なんてことを,ぐるぐる考えるわけです。ほんの4〜5秒の事だと思いますが。

 結局,とりあえず神社の人に知らせることに決定。でも,その「戊辰戦争エリア」から出るためには,また「死体らしきもの」のわきを通らなければならず,なるべくそちらを見ないようにして,後頭部をゾクゾクさせながら早足で歩いたのでした。

 「戊辰戦争エリア」から参道に出る途中で,エリアに入ってくる60歳くらいのおじさんがいたんで,その人を呼び止めて意見を聞く。「すみません。あの人,なんか様子おかしくないですか?」おじさんは遠目から中を見てすぐに「あ,亡くなってるわ。」と,ひとこと。さすが年の功。…そのあと,おじさんと二人で社務所へ。この社務所がけっこう遠くて,もしあのおばあさんの息がまだあったら,これで手遅れになるのではないか。などと思いながら進んだのでした。

 そのあと神社の人が確認して,やっぱり亡くなっていたのでした。ということは,やはり私はあの狭い空間でぶらさがっている死体と一緒に数分間過ごしたのだし,ぶらさがっている死体に対して,すごい集中力だなぁ,などと感心していたということなのでした。

 しばらく社務所で待っていると警察の人が来て,「できたらちょっと一緒に来て,状況を説明してもらいたい」などというので,私とおじさんはまた「戊辰戦争エリア」へ向かったのでした。「戊辰戦争エリア」にはロープが張られていて,よく刑事物なんかで見るような状況になっていました。私は第一発見者で関係者なので,そのロープをくぐって現場へ入ったわけです。そばには若いカップルがいて,何事かと見守っていたわけですが,私は少しだけ優越感を感じつつロープをくぐったのでした。でも,あのカップルは私が何かの犯人だと思ったかもしれない。

 現場には警察の検視の人が何人かいて,写真を撮ったりしているのでした。そしておばあさんは先ほどと全く変わらずにエリアの真ん中で直立していました。よく,首吊り死体はすごい状況になる,と言われます。身体の内容物が噴出したり,表情も凄まじいものになる,というんですが,このおばあさんの場合は少なくともはた目にはそんなことはなく,遠目には,やはり何かを静かに,熱心に祈っているように見えたのでした。

 そんなわけで,今回私は偶然に首吊り死体などというものを発見してしまったわけで,普段,路上の色んなものを発見するべく動き回っている私ですが,相当にショッキングなものに出会ってしまったわけです。ま,「もの」なんて言い方すると死体のおばあさんに失礼なことになってしまうんですが,おばあさんの魂もインターネットまではチェックしないと思うんで,もしチェックしてたらごめんなさい。たたらないでください。

 でも,今回のことはすごい偶然が重なってるんですね。新潟には珍しいくらいに晴れて,私が路上に出られるような状態で,海岸線を踏査しようと思って,それ以前に神社に興味を持ち始めている時期で,初めて護国神社に行こうと思って,ふと戊辰戦争の墓碑を見ようと思って,といったことが重なって,私が見つけた。ま,確かに世の中の全ての事象は偶然の積み重ねなわけで,今日のおかずがカレーライスだということも相当な偶然なわけです。しかし,今回の件については,あのおばあさんと私には,なにがしかの縁があったんでしょうね。そう思うと,浮き世でどんなつらいことがあったのかは知らないけれども,安らかに眠ってもらいたいと思うわけです。


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