立ち物件
立ち物件
交通量はそれほど多くないけれども比較的広い通りに面したさるお宅。その玄関脇に設けられている,用途不明の扉であります。
扉は手前に引くことによって開くようなので扉としての機能そのものは満たしているわけですけれども,扉を開いたあとにどうするのかが,よくわからないんでした。
扉の先は,扉分の幅と人間が一人ようやく立てるくらいの奥行きの空間があるのみ。上のほうには窓がありますけれども,扉を開いてこの窓から家の中に入るというのはちょっと無理がありそうであります。
また,この窓の下に忍者屋敷のようなカラクリ扉がある,というのもちょっと考えにくいんでした。この扉の先からはどこへも行けないし,動くこともできない。
そうするとこの扉の中の空間というのは,ただそこに立つためだけに存在する空間であるということなんでありましょうか。扉を開け,そこに立ち,扉を閉めて掛け金をおろす。あとは何もせず,外をながめるだけ。ただ立つだけの,立ち室。
ああ。でもなんとなくそういうのもいいかもしれない。ある種ぜいたくの極みのような時間と空間の使い方のような気がしてくるんでした。
あるいは,子どもが何かイタズラをしたときにここに入れておしおきするのか。はたまた自分にとても厳しい人が何か失敗をしたときにここに入り,自分自身を戒めるための自戒の部屋なのか。
ちょっと試しに入ってみたい空間ではありますけれども,一度入ってしまうと誰かが代わりに入ってくるまでは自分が出られなくなってしまうという,そんな怪談じみたことが起こりそうな気がして入れない,そんな空間であります。
まぁ,他人の家だから勝手に入るわけにもいきませんけれども。
「立ち室」は新潟市・上大川前通11あたり。