落差物件

落差物件


 街を歩いていると,電柱の下におそらくウサギと思われる縫いぐるみがちょこなんと座っていたんでした。割と大きなもので遠くから見てもそれとわかり,そのたたずまいがなんともかわいらしいと感じたわけでした。

 たぶんこの電柱のあたりはゴミ置場であって,出す曜日を間違えたかなにかで置いてけぼりをくらったのではないかと思われるわけですが。それでも,このように座らせておくゴミ収集あるいは近所の人の気持ちが,見るものの気持ちをやさしくしてくれるようなんでした。が。
 近寄ってみると。


 うさぎに数箇所ある縫い目が裂けていて,中身のスポンジだか綿だかがはみ出そうになっているんでした。破裂寸前。北斗神拳をくらった人間が「ひで」あたりまで言ってるような状況であります。うさぎのはらわた。

 まぁ,別に縫いぐるみなんだからどうということもないわけですけれども,「あ。ちょっとかわいいな」と思いつつ近づいたものが悲惨な状態であった場合,その落差というものが恐怖やショックに変わってしまうものなのだろうなと思ってしまったりしたわけでした。

 やはり,柳の下に立っている幽霊はもともとの造形が美人であるが故にショッキングであり怪談なのであって,造形自体がブサイクな幽霊というのはギャグにしかならんのではないかと思われるんでありました。

 そのショッキングさというのは,外見だけではなく内面的なものについても感じられるわけで,普段温厚な人が暴れだしたりすると大変な恐怖になったりするわけでした。


 こちらは水島新司ストリートであります。これはもちろん,ドカベン・山田太郎。花壇の花に向かってフルスイングしております。バットが曲がって見えるほどに。
 何かにキレてしまったのか。気はやさしくて力持ちの彼に,いったい何があったんでありましょうか。温厚な人というのは,どんどんいろんなものが内部にたまっていってしまうものなのかもしれなくて,どこかで発散させねばならないのかもしれませんが。山田太郎にとっては,これがその発散方法なのか?

 まだ花に当ってはいませんけれども,彼のスイングは中学生時分ですでに「鉛入りのマスコットバットでストレートを空振りしたら,ボールが風圧で落ちて『ドロップ』になってしまった」ほどの威力であるので,このままスイングを続ければ花が木っ端微塵になるのは確実であります。

 ボクサーの拳が凶器であるように,山田太郎のバットというのもすでに凶器なんでありますね。
 いや,バットは誰が持っても凶器になりうるかもしれませんけれども。

「うさぎのはらわた」は新潟市・三和町あたり。
「発散ドカベン」は新潟市・古町通5あたり。