色あせ物件

色あせ物件


 これは,山際豆腐店さんのカンバンであります。特におかしいところというのはないわけですけれども,私はどうもこのカンバンがお気に入りなんでした。カンバンというか,この絵の親子(だろうな。多分)が微妙にツボに入ってくるんでありました。なんとなく,ほんとになんとなく,イイ。

 このお店の前は車でもよく通るのだけれども,私はこの前を通るたびに「うんうん」とうなづいてしまうわけなんでした。
 家が近いわけでもないし,このお店の豆腐やらこんにゃくやらを買ったことというのは全くないわけですけれども。

 で,この親子(だろうな。多分)に会えるのはここだけなんだろうなぁと漠然と思っていたのだけれども,先日違う場所を歩いていたら,偶然に山際豆腐店さんらしいお店を見つけてしまったんでした。

 こちらがそうなんでありますけれども,どうやらこちらはもう営業してないっぽいんでありますね。シャッターは下りてさびついてるし,店名やあの親子(だろうな。多分)もすっかり色あせてしまっているんでした。

 はたしてどちらが先にあったお店であるか,どういう戦略でこちらのお店を閉めてるのか,といったことは私は知らないですけれども,「絵がうまく描けた方を残した」んではあるまいか。などということを考えてしまったりするわけでした。


 こちらは,路上の物件というよりも路上に落ちていたゴミなんでありますけれども,そのネーミングが素晴らしいでありますね。やる気足袋。これを履くと,やる気がわいてくるんでありましょうか。
「え〜。オレもう仕事なんかいいっすわぁ。なんか,たりーし」なんて言ってた鳶の兄ちゃんが,この足袋を履いたとたんに目をキラキラさせて「うはははは。元気モリモリっすよ! じゃ,行ってまいりやす!」なんて言いながら飛び出していくのかもしれない。

 そしてそれから十日ほど経ってから同じ場所を歩いてみると,この箱はまだ同じ場所に落ちていたんでした。

 …すっかり色あせております。やる気が萎えてしまったんでありましょうか。五月病か。
 その後数日して行ってみると,箱はなくなっておりました。やる気が完全になくなってしまったようであります。


 こちらは,タクシー会社であります。「タクシーの御用命は       当社へお申付下さい」ということで,真ん中が妙に開いているのが気になるところでありますね。
 で,近寄ってみると(我ながらイヤなヤツであるなぁ),そこには「値上げをしない」という文字が書かれていて,写真には写らないけれども肉眼ではなんとか読み取れるほどに,白く消されているわけなんでした。

 むぅ…。値上げをしてしまったんでありますね…。このカンバンの場合,ペンキの色があせたわけではなくて「値上げをしない」という決意が色あせてしまったようなんでありました。

 いやまぁ,最期まで必死に値上げをしないようがんばったのかもしれませんけれども。でも,時代には勝てなかった。
「値上げをしない」を消すときは,社員一同くやし涙を流しつつ,蛍の光を歌いながら消したのかもしれない。
 しかし,カンバンを書いた時点では「値上げをしない」という方針をいつまでも続けていけると思っていたんでありましょうか。そして,「値上げをしない」というのにかわる別のキャッチフレーズを考えようという気持ちはまったくないんでありましょうか。なんてことを考えてしまうわけでした。

「多分親子」は新潟市・内野町あたり。
「色あせ親子」は新潟市・五十嵐中島4あたり。
「やる気足袋」は新潟市・並木町あたり。
「値上げをしない」は安田町・保田あたり。
 安田町は今では阿賀野市だけれども,それに対応した地図を持ってなくて現在の地名がわからんので,しばらくは従来どおりの地名でいくぞ。