自由律物件

自由律物件


 これは…どうでしょう。私なんかはちょっと涙が出てきそうなんですが。いや実際に涙は出ないけれども,なんだかグッとせまってくるものがあるのは,私だけでありましょうか。

「犬の糞場で無いです。」

 この抑えた響き。まるで山頭火の俳句をみるようでありますね。句点を含めてわずか10文字なのだけれども,見るものの情感にうったえてくるんでした。…私だけか?

 いったいどんな人がどんな思いで書いたのか。ちょっと想像してしまうのが,高倉の健さんかなと。
 昔お世話になった,今は寝たきりになって引退しているその筋の親分とその娘。かつては憎からず思っていたその娘が近所のチンピラから犬の糞を使った嫌がらせを受けていると知った健さん。その健さんが,度重なる嫌がらせにも怒りを抑え「不器用ですから」と言いつつ書いたハリガミなのかもしれない。

 ところがそのあとついに犬の糞が親分の家に投げ込まれて,それを顔面にかぶった親分がショックで息を引き取り,怒り頂点に達した健さんの大立ち回りで血の海が。
 そして連行されていく健さんに,娘は「私はいつまでも待ってるから」と言いつつ黄色いハンカチの約束を…。
 …てなことを考えるのはさすがに私だけか。


 上の物件のように感動はしないけれども,こちらもちょっと注意カンバンとしては面白い表現でありますね。でもどうせなら

「川にさくがなくてあぶない」

とかにしておけばまた山頭火風でよかったのに。おしい。

「糞場で無い」は村上市・新町あたり。
「さくがない」は見附市・市野坪町あたり。


※もしも「種田山頭火」を知らないといういう人がいるならば,ネットで検索をかけてみましょう。
 有名なところで
「うしろすがたのしぐれてゆくか」
「まっすぐな道でさみしい」
などの句があったりするんでした。