倒置物件
「♪私は泣いています ベッドの上で」という歌が流行ったのはいつ頃のことであったか。けっこう齢もかさなってきた私にしてよく憶えてないので,だいぶ前だと思われるんでした。
しかし,当時の子どもたちにとって,その言い方は初めて触れる倒置法だったんではないかという気がするんでした。
いや他の流行歌やマンガなんかでもあったかもしれませんけれども,何かこう,無垢な少年にとってオトナの世界を垣間見るようなインパクトを持って印象に残る言い回しとなったわけでした。
そんなわけで,上の物件。駐車場のカンバンであります。
「子供さんは,あぶないので
遊ばないで下さいカレージの中で。」
ということなんでした。
「カレージ」というのも気になるところではありますけれども,なんと言っても倒置法であります。
どういう効果を期待して倒置法を使用したのか。やはりまず第一に「あぶない」そして「遊ぶな」が大事なのであって,場所は優先ではないということか。
うむ。子どものことをよく考えたカンバンであるな。子どもはそんなに長い文章読みたくないしな。カレージなんて、問題じゃないよな。などと感心したわけでした。
しかし,そのすぐ近くにこのような普通のカンバンもあったんでした。
「子供さんは,あぶないので
ガレージの中で遊ばないで
下さい。」
という,ノーマル語順のカンバンであります。
どの辺が違うんであろうかと思ったわけでありますけれども,文字の入るスペースでありますね。
このノーマルパターンは3行ぶんだけれども,最初の倒置パターンは2行ぶんしかスペースがないんでした。
普通の文言はノーマルパターンのものなんだけれども,2行しか書けないとなると削るのはやはり「ガレージの中で」か。よし,そこを削ろう,ということで作業を始めたんだけれども,よく見たら「まだ横にのばせるじゃん」ということに気づいて,あとから「ガレージの中で」を追加したらあせってしまって「カレージ」になってしまった。
というようなことなんでありましょうか。
違うような気もするし余計なお世話でありますけれども。
しかし,何はともあれこの辺の子どもたちはいつか
「ああ。あのカンバンが,初めて触れた倒置法だったかもしれないなぁ」
と思ったりするかもしれないでありますね。思ったりしないか。
こちらは,パイロンに貼られたハリガミであります。
「猫に餌を与えないで
ください 何度も
言っていますけど」
とのことなんでした。
「何度も言っていますけど」がちょっと怖いところであります。
「言ってます」ではなくて「言っています」とていねいな部分もそうだし,やはり倒置法によって迫力というかいらだちが際立って伝わってきているような気がするんでした。
あるいは,実は「猫なんかに餌を与えないで,私に餌をください。何度でもいただきます」と言っていたりするんでありましょうか。言ってないか。
こちらは倒置法を使ってるわけではないですけれども,オマケ。
「人や犬は 糞をしないで下さい」
とのことなんでした。
私は「人はしないだろ。人は」とツッこんでいたわけであります。
しかしそのとき一緒にいた,この近所のN氏によれば
「いや,うちの駐車場にもときどきあるんだよ。これが」
ということなので,ホントに切迫した問題であったのでした。
しかし,このハリガミも倒置法で
「糞をしないで下さい。 犬も。 人も。」
あたりにすると,ちょっと人間の尊厳が頭をもたげて自重しそうな気がするところでありますね。
まぁ,人の玄関先で糞をしようとする時点で尊厳は捨て去っているような気もしますけれども。
「カレージの中で」は新潟市中央区・古町通10あたり。
「言っていますけど」は新潟市中央区・古町通1あたり。
「人や犬は」は新潟市中央区・横七番町通1あたり。