達筆物件2



 昨今はハリガミもパソコンなんかで気軽に作れるようになっておりますけれども,やはり手書きのものの方が見る方はオモシロいわけであります。
 作る側も,手書きの方がそこにこもる情念というものがちがうんではあるまいかと思われるんでした。そういえば私自身はハリガミというのを書いたことがないですけれども。

 ただ,やはり手書きとなるとセンスや上手下手が出てしまうわけで,そういったところに自信のない者にとっては踏み込みがたい領域ではあるんでした。
 私ももっと字がうまければ,どんどんハリガミを書いていたりするかもしれませんが。

 そんなわけで,上の物件。狭い路地の,個人のお宅の入口に貼ってあるハリガミであります。
「病気のため 面合禁止 御願い致します 各位様」
ということらしいんでした。達筆で,ホントにそう書いてあるのかどうかというのもわかりませんけれども。
 まぁ病気らしいのであんまりオモシロがってちゃいけないかもしれませんけれども,オモシロくなってしまうものはしょうがなかったりするんでした。

 実はこの物件は,知ってる人は知っている(あたりまえ),かの三流亭楽々さんのタレコミによるものであります。
「合いたくないのですね…各位様は誤用ですね…。」というコメントとともにいただきました。おありがとうございます。
 その後,私も自分で見に行って写真撮ってきました。

 しかし力強い感じの字でありますね。本当に病気なのか? と思ってしまいそうであります。

 それ以上にちょっと気になるのがやはり「面合禁止」でありますね。メンゴー?
 普通は「面会禁止」と書きそうでありますけれども,あえて「面合」と書くことでニュアンスを変えているんでありましょうか。
 確かに「面会」というと,病院とか留置所とかそういう施設の中などで限られた時間で会うシチュエーション,というイメージはありますが。

「面合」というのでちょっと辞書を引いてみると,「面合せ(おもあわせ)」というのがでてくるんでした。意味としては「ものをたたんだり重ねたりするときに,表が合うようにすること」だそうであります。
「病気なので,モノをたたむときは裏同士あるいは表と裏が合うようにたたみましょう」
ということなんでありましょうか。
 ちょっと意味がつながりにくいようであります。

 ここは,やはりモノではなくヒトと考えた方がつながるような気がするでありますね。
 ヒトの表側と表側を合わせることを禁じるということは,すなわち正常…いや,そこまでいかなくても,文字通り面と面を合わせるセップンなどを禁じているのかもしれないんでした。

 まぁ,風邪なんかの伝染性の病気だとしたらやはりセップンは禁止したほうがよさそうではあります。
 しかし,病気だからセップンを禁止するということは,このハリガミ主は健康体のときにはセップンし放題あるいはセップンされ放題なんでありましょうか。やれくやしや。うらやましや。
 いやまぁ,うらやましいかどうかはその相手にもよるかもしれませんが。


 こちらは
「車にいたづらしないで下さい 警察に連絡してあります 宜しく」
とのことなんでした。

 なんだかちょっと上品な物腰のおかみさんを想像させる文字であります。
 このおかみさんに「宜しく」と言われたら,近所の屈強なお兄さんたちも
「おかみさんの車にいたづらするたぁふてぇ野郎だ。すぐとっつかまえて,警察なんぞに渡さずにスマキにして信濃川に放り込んでやりまさぁ」
と気勢を上げそうでありますね。

 それを聞いたおかみさんは
「おやまぁ。そんな物騒なことをお言いでないよ。つかまえたら,洗車でもさせといとくれ。宜しく」
とか言いながらキセルの灰をポンと落としそうであります。

 実際には新潟弁でしゃべるでしょうけれども,新潟弁に変換すると「おここ。そんがのおっかねげなこと言うんねんてばね」なんて感じになって,様にならないでありますね。

「面合禁止」は新潟市中央区。とりあえずご病気のようなのであんまり詳しくは書かずにおきましょう。
「宜しく」は新潟市中央区・寿町2あたり。