カケ物件2
割と交通量も多い道路の歩道を歩いていたら,脇の植込みの中に
「どうぞ ご自由に おかけください」
というカンバンがあったので,さてどうしたものかと思ったわけでした。
「おかけください」と言われても,私ももうだいぶ年をとってきているので,突然走り出したりしたら倒れてしまうかもしれないんでした。
どこかへ行くのに意味もなく全力疾走していた子どもの頃が懐かしいところであります。そういえば全力疾走なんてもう何年していないのか。もう気持ちに足がついていかないのだろうなぁ。
ということでは,どうやらなさそうであります。
でも「おかけください」と言われても,シラフで昼間から,しかも車もけっこう通っている道路でおもむろにジッパーをさげて放水を始めるというのは,さすがにちょっとためらわれるところであります。
でもこの植込みが青々と育っているのはそのおかげなんでありましょうか。
ということでもなさそうであります。
すると,この植込みの中には実はレコードプレーヤーが隠されていて,LPレコードなんかを持ってくるとここで音楽をかけることができるスポットだったりするんでありましょうか。
そろそろ苦しくなってきたのでタネあかし(というほどのもんでもない)をすると,この少し奥にはイスとテーブルが置かれているんでした。
いやもう最初からみなさんわかっておられたとは思いますけれども,こちらではイスにかけて休憩することができるということだったんでした。目に入っているものをあえて無視して妄想するというのもタイヘンであります。
しかし果たしてそれで終わりなのか。
イスを目に入れた上でさらに妄想を広げると,このイスに座ってテーブルの上で楽しく花札なんかをしている大銀杏を結った人の姿が見えてきたりするかもしれないんでした。真剣な顔でテレビの野球中継を観ている人もいるかもしれない。
「ご自由におかけください」と言われているこの場所は,彼らにとって楽園なのかもしれないんでした。
ああ。時事ネタだ。
(※数年後に読まれる方へ。 この物件は2010年7月に書かれたものであります。「2010年名古屋場所」あたりで検索すると当時の状況がわかるやもしれません)
こちらは,カケ物件本来のテーマ(というほどのもんでもない)である,文字の欠けであります。
本来は「かつ力」さんという,トンカツ料理のお店であるような気がするでありますね。
そのひらがなである「か」の字の,何と言うか最後の点が落ちてしまっているんでした。
まぁ,「か」の点がなくなって「カ」となっても,カタカナとして読めてしまうわけですけれども。あってもなくても大丈夫という「かの点」は,少しかわいそうでありますね。生まれてすみませんとか考えてしまったんでありましょうか。
それはともかく,最初をカタカナとして読むと次の「つ」をひらがなで読むわけにもいかなくなって,「つ」を「フ」と読みたくなってくるところであります。そうなるとこれはもう「カフカ」であって,なんだか変身してしまいそうなんでした。
実はこのお店は角地にあって,もう一方の面にも同じようなカンバンがあるわけですけれども,そちらもまったく同じように「かの点」が落ちているんでした。構造上,落ちやすくなっているんでありましょうか。
あるいは,ホントにこのお店は西洋文学食堂「カフカ」に名称変更したりしたんでありましょうか。
はたまた,世の中には「かの点」マニアと呼ばれる人たちがいて,こちらのカンバンは名品として盗まれたりしてしまったんでありましょうか。
まぁそうだとしてもお店の人もあんまりカっカしないで,これからもお仕事にはげんでおいしいトンカツを食べさせていただきたいものであります。
「おかけ」は新潟市秋葉区・美幸町3あたり。
「カつ力」は新潟市中央区・米山2あたり。