有効利用物件



 「私道につきスピード出すな!」と書かれた,小路の出口であります。
 車に対してだけ「スピードを出すな」と言っても説得力がないわけで,路面には歩行者用に「とまれ」の表示も見えるんでした。

 その「とまれ」表示。小路側から見るとこうなっているんでした。


 こういった路面表示というのは素人がやっていいものなのか,そして簡単に出来るものなのかよくわかりませんけれども,この「とまれ」を見る限り,多分に遊んでいるような感じを受けるわけでした。
 まぁ,私道らしいので何してもいいんでしょうけれども。

 路面表示を見てまず気がつくのは,この「とまれ」というのはひとつのセットになっているらしいということでありますね。
「円」の中に「足跡」と「とまれ」が配置されていて,それぞれのパーツを切り出して路面に圧着するという手順であるように見えるんでした。

 結果,内側の「切りとり跡」の部分が出てくるわけでありますけれども,それ自体にも「円」「足跡」「とまれ」は存在するわけで,十分に利用することができるわけでした。ひとつのセットでふたつの「とまれ」ができるわけでありますね。
 で,小路にふたつの「とまれ」は必要ないんだけれども「切りとり跡」を捨てるに忍びない場合,ふたつ並べてしまうというのはしょうがないことであろうと思われるんでした。

 そして,その際に上下まったく同じ形を並べても面白みがないと思ってしまうのもよくわかるところであります。下のほうでは配置をちょっと変えているようであります。
 やはり「足はそろえて止まった方がいい」と思ったのかどうか。作者は女性でありましょうか。確かに,上の足跡のように足を開いて安全確認をしている女性がいたらちょっとガッカリあるいは喜んでしまうかもしれませんが。

 あるいは,手前の「とまれ」は「マンホールがあるので注意」ということなんでありましょうか。このマンホールからは頻繁に人が顔を出すのかもしれないでありますね。
 気を抜いてるとその顔面を蹴り上げたり,逆に股間に頭突きをくらったりするのかもしれないんでした。

 まぁ,本来はマンホールのあるところに「とまれ」を書きたかったのかもしれませんけれども。
 でもマンホールを挟んで前後に「とまれ」があるために,「ケンケンパ」をしているようなちょっと面白い雰囲気になっているのも確かであります。

 この私道から出てくる人は,毎日マンホールの手前で足をそろえて警戒し,マンホールを越えたら足を開いて安全確認を行なっているんでありましょうか。


 こちらは,おそらく現在は営業していないと思われるお店であります。左側には薄く「ウイ」と見えるので,かつては「ウイング」さんであったのだろうと思われるんでした。

 店をやめたのであれば店名も全部撤去してしまえばいいようなものでありますけれども,やはりそれにもお金あるいは労力がかかるということで途中でやめてしまったんでありましょうか。

 いや,そうではなくてまたいつかお店を始めるときのために残しているのかもしれないでありますね。
 トマソンで言うところの「ウヤマタイプ※1」のように,捲土重来を期しているのかもしれないんでした。

「ング」を残しておけば…
「ショッピング」にして,スーパーマーケットができるかもしれない。
「ソング」にして,レコード屋(古いか?)ができるかもしれない。
「スイング」にして,ゴルフ用品屋ができるかもしれない。
「ガング」にして,おもちゃ屋ができるかもしれない。
「ブング」にして,文房具屋ができるかもしれない。
「シング」にして,フトン屋ができるかもしれない。
「リング」にして,指輪屋ができるかもしれない。
「ゴング」にして,プロレス用品屋ができるかもしれない。
「ヤング」にして,若者用品屋ができるかもしれない。
「ジパング」にして,和食屋ができるかもしれない。
「ビルヂング」にして,不動産屋ができるかもしれない。
「ギャング」にして,強盗用品屋できるかもしれない。
「ヒニング」にして,ゴム製品屋ができるかもしれない。
「ユング」にして,心理学用品屋(箱庭作成キットとかロールシャッハ用紙とか)ができるかもしれない。
「キング」にして,王様用品屋(王冠とか杖とかマントとか)ができるかもしれない。
「テング」にして,天狗用品屋(うちわとか一本歯下駄とかオシャレ付け鼻とか)ができるかもしれない。

という具合に,いろいろなお店で再起することが可能なわけでした。

 まぁ「ング」があれば大概の進行形というか動名詞をカバーできると思われるので,これを残しておいたというのはなかなかのやり手なのかもしれないでありますね。
「テング」で儲かるのかどうかわかりませんけれども。

「とまれ」は新潟市中央区・万代3あたり。
「ング」は新潟市東区・大形本町5あたり。

※1
「ウヤマタイプ」は路上観察における「トマソン」の分類のひとつ。
 ごく簡単に言うならば「カンバンの一部の文字が消されているもの」。
 最初に発見されたのが「_はウヤマ 卯山_店」というカンバン的なもので,「何を扱っている店なのか肝心の部分がわからない。今は店を閉めてしまったけれどもいつかまた再開するときにはどんな商品でも扱えるようにしているのかもしれない」という想像をさせるというあたりから「ウヤマタイプ」と呼ばれることになったわけでした。