停める物件



 建物の一角が三角形のスペースになっていて,そこにタイヤが並べられているんでした。中ほどに見えるドアには小さ目な「駐車厳禁」のプレートが。

 この三角スペースは,状況から見てこの建物の駐車場のように思われるでありますね。煙突の感じからして,こちらでは何かを製造しているんでありましょうか。そしてここはその荷物を搬出するための一時的な駐車場になっているような感じであります。
 たくさんのタイヤは,搬出用の車が壁にぶつからないように車止めになっているんであろうと思われるんでした。

 しかしそれにしても置き方が執拗でありますね。もう1センチたりともスキマを作るまいとするような徹底ぶりであります。そんなに駐車に自信がないんでありましょうか。
 ドアも開けられるのかどうか。このドアは使用していないんでありましょうか。

 でもこのようにタイヤを置いたところで,車止めとして有効なのかどうかというのはちょっと疑問であるような気もするんでした。もっと手前でタイヤに接触するようにしないと,止まる前に車体は壁に当たってしまうような気がするんでありますね。車止めではなく壁自体を保護しているにしては,低すぎるようであるし。

 してみると,このタイヤは車止めなどではなく実際に使っているタイヤなんでありましょうか。ここのオーナーが心配性な人で,車のタイヤがいつパンクしても大丈夫なようにストックしてあるのかもしれない。違う大きさのタイヤもあるようですけれども。

 あるいは,これは見せしめなんでありましょうか。ここに不法駐車をした車は,筋肉隆々のオーナーによってジャッキもなしでタイヤを外され,車本体はその辺に放り投げられてしまうのかもしれない。そして不法駐車を葬った証として,タイヤをここに飾っているのかもしれないんでした。

 そのうちオーナーの行動は趣旨が変わってきて,タイヤを千本集めるということ自体が目的になり,あちこちの車から無理矢理にタイヤを外してまわるようになってしまうかもしれないでありますね。
 そして千本目のタイヤを奪おうとした京の五条の橋の上で身軽な美少年に完敗し,彼の家来になったのち勧進帳を読み上げたり主人を杖で打ったり立ったまま往生したりするのかもしれないんでした。
 何の話をしているのか。


 こちらは小学校わきの歩道に貼られたカンバンであります。だいぶ古くなったカンバンでありますけれども,「駐車ご遠慮下さい」というのはまったくごく普通の内容なんでした。

 ただ,その脇にこのように「一輪車」が置いてあると「これは駐車…ではない…よなぁ?」などと思ってしまうわけでした。一輪車をここに立てかけた人は,そういうことを意識してやったのかどうか。

 逆に,いつもここに一輪車を置いていく人がいることに困った小学校側が「駐車ご遠慮…」を掲示したんでありましょうか。
 学校側としても,「一輪車を置かないで下さい」と書くと子どもたちが自分たちの「乗用一輪車」を置けなくなると勘違いして泣いてしまうかもしれないし,「ネコ車を置かないで」と書くと子どもたちが「どんな車だろう」「猫バスみたいなやつ?」とワクワクして,そのあと本物を知って失望してしまうかもしれないので,「駐車」という書き方をしたのかもしれないんでした。しれなくないか。

 私が子どもの頃,大人たちの会話で「あそこの工事で使ってる一輪車,年季が入ってるね」というようなことを言っているのを聞いてサーカスのような楽しい工事現場を想像し,「工事の人,一輪車乗ってるの? 見たい」というような発言をして笑われたのは軽いトラウマであります。


 オマケ。
 こちらはさる駐車場,というか,主役は手前のフェンスであります。フェンスというよりも,そこに生えている木でありましょうか。

 ツタなんかが絡まっているのはよく見かけるし,あえてそういう風にしている向きもあるわけですけれども,ここのやつは幹も枝もなんだか太いんでした。
 このくらいのものになると,フェンスに頼らずとも自分の力で伸びていけそうでありますけれども,そういうものでもないんでありましょうか。私は樹木には疎いもので。

 この木はここが駐車場になる前から生えているもので,元はフェンスと家の壁の間で窮屈に成長していたものなんでありましょうか。駐車場になって,初めて周囲に空間ができたのかもしれないでありますね。
 しかし空間を自由に使えるようになっても今まで狭い中でしか生きてこなかったので,悲しいかなその空間の使い方を知らないんでありましょうか。あるいは使い方を知っていても,調子に乗って伸びると結局排除されてしまうということを知っている賢い木なんでありましょうか。

 しかしこの平面的なひろがり方は,ちょっとブキミさも感じてしまうようなところでもあるですね。
 この木は実はよく飼いならされていて,不法駐車があるとじわじわと枝を広げ,車を包み込んで食べてしまう食車植物だったりするのかもしれないんでした。しれなくないか。

「タイヤ弁慶」は新潟市中央区・東万代町あたり。
「一輪ネコ車」は新潟市中央区・古町通13あたり。
「食車植物」は新潟市中央区・笹口1あたり。