崩れ物件



 カンバンというのは最初立派に作ってあっても,どうしてもそのうちに傷んでくるというのは宿命であるんでした。
 傷む際に,ただ朽ちるのではなく形が変わったり内容が変わってしまう場合があるわけで,そういったものが物件になりやすかったりするわけでした。

 ということで上の物件。これは朽ちているというわけではありませんけれども,後半の方がなんだかもうグダグダでありますね。あえて崩しているというわけではないような気がしますが。
 もうちょっと浮ついたというかポップな仕事(どんなのだ)であればあえて崩したりもするでしょうけれども,薬局でポップになられてもちょっと不安になるんではあるまいか,と思ったりするわけでした。

 それとも,最初は頑張ったけれども最後のほうで「ああ。なんか今日はもう,どうでもいいや」みたいな感じになってしまったんでありましょうか。それもまたちょっと不安な感じであります。
 やはり,一生懸命やって結果もキッチリしているということを求められる仕事というのが多いわけであります。特に,健康をあずける仕事となればなおさらでありますね。

 もちろん,カンバンの技術と本業の技術というのはまったく異なるものであるので,カンバンに手が回らない分,本業ではキッチリしているということも多いと思われるわけであります。
 おそらくはこちらもそういうところなのだろうと思いますけれども,やはり一抹の不安がよぎってしまうというのがカンバンの恐ろしさなんでした。


 こちらは100円パーキングの入口であって,清算機を囲っているテント部分の裏側なんでした。一応こちら側も道路に面しているので,「昼最大料金」のカンバンが貼ってあるわけでした。

 ただ,その最大料金がいくらなのかが読めないんでした。かつては色鮮やかな数字シールが貼られていたんでしょうけれども,すっかり褪色して背景とともに真っ白になってしまっているんでした。

 さらには,そのシールすらもはげかかっているわけでありますけれども,ここで奇跡がおこっているんでありますね。いや奇跡と言うほどのもんでもありませんが。
 そのはげたシールの下に,背景の色が浮かび上がってきているんでした。シールが貼ってあったが故に褪色しなかった部分が今になって現れてきているわけで,ひょっとするとこれは計算されていたことなんでありましょうか。

 設定しておいた時間を経てシールがはげると,新しい料金がその下に表示されるというハイテクが,この100円パーキングで導入されているのかもしれないんでした。

 はたまた,これは最大料金の脱皮なんでありましょうか。全国にある100円パーキングというのは実は生き物であって,みんな時期が来ると知らないうちに脱皮して微妙な部分で値段があがっているのかもしれないでありますね。お近くのパーキングを観察してみるとよろしいかもしれないんでした。


 こちらは,ちょっと朽ちた感じでありますね。しかし,言わんとしていることはまだ十分にわかるんでした。
 おそらくは
「月極駐車場 無断駐車の車は、罰金二万円頂きます」
ということだと思われるわけであります。

 ただ,語尾のあたりの朽ち方が激しいので,ちょっと違う字に見えてしまうんでありますね。

「無断駐車の車は」の最後の「は」が「よ」に見えてしまうことによって
「無断駐車の車よ」という呼びかけになってしまうんでした。

 さらに「罰金二万円頂きます」の最後である「ます」が半分消えていて,これまた「よ」に見えてしまうわけで,そうすると
「罰金二万円頂きよ」という,「月に代わっておしおきよ」的なお言葉になってきてしまうわけでした。

 しかし逆にそのお叱りの言葉を受けたくて,あえて無断駐車をしようとするヤカラもいるかもしれないでありますね。でも実際に二万円支払うのはおっかないおじさんだったりするかもしれないので,おしおきされたい症候群の方は気をつけて無断駐車をしたほうがよろしいかもしれないんでした。よろしくないか。無断駐車は。

「くずれ薬局」は新潟市中央区・東中通1番町あたり。
「料金脱皮」は新潟市中央区・一番堀通あたり。
「頂きよ」は新潟市中央区・雪町あたり。