撤退物件



 賃貸タイプの駐車場というよりは,住宅に付属のパーソナルな駐車場…という風情の駐車場に,このハリガミが貼ってあったんでした。

「駐車場は、止めました
 ので駐車しないで
 下さい。
    小林」

 はがれかけた左端が,その内容と相まって物寂しさをかもし出しているような気がするわけでした。

 おそらくは自宅の空き駐車スペースを貸し駐車場として活用していたんでしょうけれども,この書き方からすると,月極めとかではなくて時間貸しをしていたと思われるですね。

 時間貸しと言っても,現在街にあふれる無機質なコインパーキングではなく,人情あふれる駐車場。
 駐車するときには隣の住居の玄関をあけて「オヤジさーん。停めてくよ」と声をかけ,オヤジさんも「おう。気をつけていきな」と返したり。
 帰りの清算で「オヤジさん,今日いくら?」と聞けば「んー。2時間ちょっと過ぎてるけどまけといてやるよ。ほい500万円!」と言われたり。
 夜,少し酒を飲んでしまってたりすると「バカヤロウ!飲酒運転なんかさせられるか! 今日はうちに泊まってきな。なに,宿泊料金なんかとりゃしねえよ」なんて言ってくれたり。

 そんな駐車場を止めてしまうとは,何があったんでありましょうか。
 いつものように客に声をかけたら「うるせえよ。ジジイ」なんて言われて,人情の通用しない時代になったと痛感してしまったのか。
 あるいは,全ての駐車場をコインパーキングにしようとたくらむ秘密結社・暗黒パーキン軍団(首領:パー王)に娘をさらわれ,土地を手放さなければならないのか。

 いずれにせよ大変そうでありますけれども,がんばって復活してほしいものであります。
 ※「オヤジさん」は私の妄想上の人物であり,実際の小林さんとは異なります。また,パーキン軍団も私の妄想上の団体であり,実在しません。多分。


 こちらは,マンションタイプの建物に付属する,タバコ売り場であります。まぁ,かつてタバコ自動販売機の存在した空間,ということでありますけれども。
 上の「TOBBACO」と書かれた屋根部分がなければ,何やらわからないトマソン空間になっているところでありますね。しかし,逆にこの屋根部分のみが残っているというのも,ちょっとモノ悲しさが感じられるような気がするんでした。

 やはり,嫌煙の波には勝てなかったんでありましょうか。単に,後ろに見える「貸店舗」所有の自販機だったから同時に撤退したのかもしれませんけれども。

 しかし,なぜこの屋根部分は撤去しないのか。
 これは「またいつかここでタバコを売るぞ」という,愛煙派の意思表示なのか。
 あるいは逆に「またタバコ自販機を駆逐したぞ」という,嫌煙派による言わば「さらし首」だったりするのか。
 まぁ私は喫煙習慣がないし,ことさら嫌煙者でもないのでどちらでもいいんですけれども。


 こちらは,昔ながらの電器屋さんという感じのお店であります。カンバンに書いてあるのを見ると,電器屋さんというか,オーディオショップらしいですけれども。

 しかし,よく見るとその「オーディオショップ」の文字,かつてはもっと大きく書かれていたようでありますね。かなり大々的に書かれていたようなのに,ある時点でそれを消して,現在のこじんまりとした文字にしたようなんでした。

 店のご主人,年齢的にも高くなって「いや,もうね。あんまり商売しようとも思わんのですわ。最近のオーディオなんていうのも,だんだんわからんようになってきたし」ということなのか。
 あるいは流浪の「オーディオショップ破り」にオーディオ勝負で負けて,カンバンをとられてしまったんでありましょうか。「オーディオ勝負」ってどんな勝負なのかわかりませんけれども。


 こちらはシャッターの文字ですけれども,一度消えた店名の文字がやや下に復活しております。
 これもやはり「米穀勝負」で負けて,一度カンバンをとられたんでありましょうか。しかし負けじ魂で再度勝負を挑み,見事カンバンを取り返したのかもしれないでありますね。
 そして,一度敗北したことを決して忘れないように,カンバンの文字は少し位置を下げて書いているのかもしれないんでした。
「米穀勝負」ってどんな勝負なのかわかりませんけれども。


「止めました」は新潟市中央区・西堀通10あたり。
「TOBBACO」は新潟市中央区・西堀通9あたり。
「オーディオ」は新潟市中央区・天神尾1あたり。
「負けじ魂」は新潟市南区・七軒町あたり。