シジン物件



 金網フェンスに貼られたハリガミであります。
「詞い主さんへ 犬のふんの 始末をして 下さい。」 
ということなんでした。

 犬のフンの始末をしてほしいというのはこの種類のハリガミの定番でありますけれども,この物件ではやはり「詞い主さんへ」というのが目を引くところなんでした。

 むぅ。「詞い主さん」というのは一体どういった人であるのか。そもそも何と読むのか。と思ってしまうわけでした。
「詞」は通常「し」とか「ことば」と読むわけでありますけれども,「詞う人」ということであるので,ここはあえて「うたう」と読むのが叙情的ではあるまいかと思われるんでした。

 すなわち「詞い主さん」は「うたいぬしさん」でありますね。「詞人」という言葉があるのかどうかわかりませんけれども,「詩人」よりももうちょっと論理的なコトバをつむぐ人。という印象であります。

 その「詞い主さん」がなぜ犬のフンの始末をしなければならないのか。それが当然のことのようにハリガミには書かれているわけでありますけれども,それが詞い主さんのゴハンを食べるための仕事なんでありましょうか。確かに,詞をつむぐだけではなかなか暮らしてはいけないような気もするわけですけれども。

 しかしその作業を嫌がることもなく,詞を唱えながら犬のフン始末を穏やかに行なう詞い主さん。その姿と彼の詞は,地域の人々の心を揺さぶっているのかもしれないんでした。


 西蒲区・巻の商店街のシャッターには西蒲区の名所旧跡の絵が描かれているようなんでした。これもそのひとつであります。どうやら「米百俵」の石碑のようでありますね。

「米百俵」の故事はかつて小泉首相当事に有名になって地元新潟ではひとしきり盛り上がったわけでありますけれども,その石碑を描いていると思われるんでした。県外の方には馴染み薄いと思いますけれども。興味のある方は検索を。
 絵に描かれている石碑の実物は私はまだ見たことがないですけれども,おそらくは忠実に描かれているのだろうと思われるんでした。

 その「米百俵」を知っていれば「ああ。こめひゃっぴょうの石碑であるな」とわかるわけですけれども,それを知らない人がこの石碑を見た場合,「俵百米」とは何であるかと思ってしまうような気がするわけでした。

「たわら百メートル」の石碑というのは,新潟市に併合される前に巻町民総出で長さが100メートルもある米俵を作ってギネス登録の申請を行なった証ではあるまいか。
 と思われても不思議は無いでありますね。「長さ××メートルの△△を作る」なんていうイベントはあちこちでやっていたりするし。
 まぁ100メートルの俵を作ったというニュースは私の記憶に無いので,おそらくそれは事実ではないと思いますけれども。

 でも本当に100メートルの俵を作ってそこに米を詰め込んでみんなで運んだりしていたとしたら,それはなかなかタイヘンなイベントであったろうなぁと思ったりするんでした。

 あるいは,「俵百米」というのはサラダ記念日とかで有名な歌人の「俵万智」さんの弟子あるいは師匠だったり…しないか。


 こちらは「ひげのラーメン」であります。
 こういったカンバンというのは作者が思うようウケを狙えるわけで,うちの物件としてはボール半分外れているわけであります。しかし審判によってはストライクにしてしまうかもしれないわけで,手を出さざるをえなかったりするわけでした。それはともかく。

 ラーメン屋さんというよりは路上でよくわからない詩を色紙に書いて売ってる人みたいな感じでありますけれども,やはりメインのメニューは「ひげラーメン」なんでありましょうか。黒い細めんのラーメン。

 店に入ると長いヒゲを生やした店主がいて,「ひげラーメン」の注文を受けると一瞬硬直した後に寂しそうな顔で店の奥に入り,しばらくすると黒い色のラーメンが出てくると。

 何も知らない客が「イカ墨でも入ってるの?」と聞きながら店主の顔を見ると,先ほどまであった長いヒゲがきれいさっぱり剃られていて,店主は涙を浮かべながら「ここまで4年かかりました。次に『ひげラーメン』を出せるのはまた4年後です…」と答えたりするのかもしれないんでした。

 そうすると,注文した客ももうそれを食べずに帰ることはできないでありますね。黒い「ひげラーメン」をずずずずずとすすらないといけないんでした。
 実は意外とおいしいのかもしれませんが。4年に1度のこの味が,ヤミツキになってしまうのかもしれない。一足違いでありつけなかった4年ぶりの客が,地団太踏んでくやしがったりするのかもしれないでありますね。

 そして4年後の「ひげラーメン」には少し白いものが混じり始め,次の次の4年後あたりには「ひげのソーメン」屋さんになっていたりするのかもしれないんでした。

※私はこのお店に入ったことがあるわけではなく,「ひげラーメン」はもちろん私の妄想の産物であります。
 とてもおいしいラーメン屋さんであるような気もしますけれども入ったことがないのでなんとも言えないため,お近くの方は行ってみるとよろしいかもしれないんでした。

「詞い主」は新潟市中央区・稲荷町あたり。
「俵百米」は新潟市西蒲区・巻甲あたり。
「ひげの」は新潟市西蒲区・巻甲あたり。