ポエム物件



 新潟市では2008年6月からゴミの分別方法が大きく変わったんでした。
 それから1ヶ月も過ぎると,その方法にもう慣れた人やらまだ慣れない人やら分別のエキスパートやらあえてルール違反をしようとする人やら色々と出てくるんでありますね。
 そして,それに伴って様々なハリガミが出現することになってくるわけでした。

 ということで,上の物件であります。この地区では第一第三水曜日に飲食用びん缶を出すことになっているようなんでした。そして,その出し方・マナーが丁寧に書かれているんでした。

「びんのキャプをはずし びんの中を軽くすすぐ
 缶のふたをはずし 缶の中を水で軽くすヽぐ」

 これを読んで,軽い既視感・デジャヴのようなものを感じてしまったわけでした。あれ,何だろうと思って考えていると,思い当たることがひとつ。

「太郎を眠らせ,太郎の屋根に雪ふりつむ。
 次郎を眠らせ,次郎の屋根に雪ふりつむ。」

 これは三好達治の「雪」という有名な詩(内容が正確かどうかわからないし勝手に引用していいかどうかわかりませんが)であって,私が小学校だか中学校だか高校だかのときの国語の教科書に載っていて,印象に残っていたものなんでした。

 この「雪」を思い浮かべてしまったんでありますね。たぶん。
「雪」では「太郎」が「次郎」になっただけの同じ文を繰り返しているわけですけれども,上の物件でも「びん」と「缶」について同じ作業を行なうわけで,それをわざわざ別々の文章として書いているあたりで,文学っぽい感じを受けてしまうわけでした。

 細かく見ると,「キャプ」と「ふた」であったり「すすぐ」と「すヽぐ」であったりするし,片方は「水で」と指定があったりして違いがあるわけですけれども,その辺は詩人のプライドをかけた繊細な表現であったりするのかもしれないんでした。

 いや,この人が詩人なのかどうかわかりませんけれども。でも,ゴミ置き場のカンバンにこの書き方というのは,やはりタダ者ではないような気がするわけでした。


 こちらは
「新らしい ゴミ出しを しっかり 守って きれいな 町にいたし ましよう」
ということで,内容的にはごく普通のことが書かれているわけですけれども,改行や字下げがなんとも詩的であるなぁ,と思ってしまうんでした。詩的というよりは書的でありましょうか。

 詩というのは,音だけでなく文字や文章の配置まで含めてひとつの作品になる場合があるわけで,このカンバン作者もやはりタダ者ではないような気がしてくるんでした。
 このカンバンをそのまま相田みつを美術館に紛れ込ませておいても誰も気づかないかもしれないでありますね。気づくか。

 そんな見方をしていくと,


 こんなものまで詩に見えてきたりするわけでした。

「四ッ郷屋の石黒!! ルール違反」

 前衛詩というか,詩のボクシングというか,まぁそういうモノの見方をすれば何でもアリになってしまうわけですけれども,魂の叫びというのが聞こえてきそうな気がしてくるんでした。そうでもないか。

 しかしそれにしても,よほど腹にすえかねたんでありましょうか。すごい名指しであります。まぁ,この物件のゴミ置き場は上新栄町あたりでありますから,無理もないかもしれませんけれども。

 新潟市外の方に説明すると,四ッ郷屋というのはこの上新栄町あたりからは7〜8キロも離れているわけであります。ただ,道路はほぼ一本でつながる場所なので,車にゴミを積んできて道沿いのゴミ置き場に捨てるというのは可能なんでありますね。地元の離れたゴミ置き場に捨てるよりも,車で遠くに捨てる方が楽だったりするのかもしれないんでした。

 いやまぁ,そういう事情なのかどうかは知りませんけれども。名指しされてる方もしてる方も,もっと深い事情があるのかもしれませんが。でもハタから見ると,そんな風に映ってしまうでありますね。

 石黒さんは,今日もこの道を通っているんでありましょうか。このハリガミを目にしているんでありましょうか。しかし自分の方に非があるとしても,いきなり呼び捨ての名指しにされるとカチンときて反論したくなるかもしれないでありますね。

 反論がある場合,それをハリガミにしてここに貼っておくというのはどうでありましょうか。
「石黒だよ!なんだよ!!」とか貼っておくと,今度は管理人さんが
「ルール違反だっつってんだろ!!」と返し,さらに石黒さんと管理人さんの間で
「こっちにだって事情があんだよ!!」
「どんな事情だよ。言ってみろよ!!」
「うちの母親がギックリ腰になってだな」
「それがどうしたよ」
などと延々とハリガミの応酬が続いていき,ハリガミのボクシングになっていくかもしれないんでした。

 そして延々と続いたハリガミの殴り合いの後は,
「へへ。お前なかなかやるな」
「あんたの方こそな。ふふ」
などというやりとりの後,ゆるぎない友情が芽生えたりするかもしれないでありますね。

 そんなこんなで,石黒さんが一日も早くゴミ置き場管理人の方と和解できるよう祈っております。
 もし和解された場合は,ご一報くださればお祝いさせていただきます。見てないか。こんなとこ。

「軽くすすぐ」は新潟市中央区・古町通13あたり。
「新らしい」は新潟市西区・西小針台3あたり。
「ルール違反」は新潟市西区・上新栄町3あたり。