犬の物件
ハリガミというのは基本的に迷惑行為不快行為への警告であるわけですけれども,その王道と言えば,やはり「ゴミ」「フン」であります。それだけ多くの人が不快に思うわけでありますね。
対象が「ゴミ」の場合,それは地域としての迷惑になるというケースが多いわけですけれども,「フン」の場合は地域よりも個人が迷惑を受ける場合が多く,それだけにさまざまな感情表現が行なわれたりするわけでした。
ということで,上の物件。
「犬の飼い主へ(お願い) 三月二十四日 午前 犬の糞の不始末について 道徳を守つて下さい 不衛生です」
とのことなんでした。なんとなくカンバン作者の律儀さというのを感じさせる文面であります。
おそらく,最初は
「犬の飼い主へ 犬の糞の不始末について 道徳を守つてください」だけであって「(お願い)」「三月二十四日午前」「不衛生です」という言葉は無かったんではあるまいかと思われるですね。
書いた後それを読み返してみて,
「む。『犬の飼い主へ』だけだと,ひどく偉そうだな。ちょっと低く出て,(お願い)とした方がいいか」
「これだと,いつの『不始末』かわからんな。日時が具体的な方が『犯人』も自分だとわかって反省するかもしれんな」
「こういう輩は,なぜ犬の糞が迷惑なのかわからんのだろうな。理由も書いておいてやるか」
などと思って,いろいろと書き足していったのかもしれないんでした。
結果,このように丁寧な,感情抑え目なカンバンができたんだと思われるんでした。
しかし,抑え目な分だけ内なる怒りも感じられるようであります。かぶせられたビニールも,
「このハリガミはいつまでもここに掲げておくよ。キミが反省してくれるまではね。犯人くん。キミはこの道を通るたびにこのハリガミを見て,罪を感じ苦しむことになるのだよ。うふふふふ」
という意思表示のように思えてくるでありますね。
まぁ,相手がそんな風に罪の意識を感じてくれる人かどうかはわかりませんけれども。
「道徳ってなに? 何を守ればいいの?」という新しい世代の飼い主なのかもしれないし。
こちらは
「立入禁止 犬を連れて 入らないで下さい」
とうことで,犬うんぬんの前にすでに立入禁止であります。
上の「立入禁止」だけ書いておけば「犬を連れて 入らないで下さい」は必要ないような気もするわけですけれども,そうでもないんでありましょうか。
あるいは「立入禁止」なのは「犬を連れている人」だけであって,人間だけならOKということなんでありましょうか。
逆に,というか同様に,人間は入らずに犬だけならOKだったりするんでありましょうか。人間と犬がペアの場合に限り「立入禁止」であると。
しかしなぜそういうペアが禁止されるのかわかりませんが。
一休さん的に考えるならば,「人」と「犬」が一緒,つまりは「伏」を禁止しているのかもしれないでありますね。このスペースで地面に伏せると,タイヘンなことが起こるのかもしれない。
今度はなぜ伏せるとタイヘンなことが起こるのかがわかりませんけれども。
こちらはちょっと語尾が見えないですけれども,
「犬のフンさせないで下さい 薬りまきま××」
とのことなんでした。
まぁ「薬り」というのは「クスリ・薬品」のことであって,「クスリをまきます」あるいは「クスリをまきました」の意味だと思われるわけでした。
一見,ごく普通のハリガミのような気がするわけですけれども,よく考えてみると「犬のフン」と「クスリ」にはどういう関係があるんでありましょうか。
まいておくとそこに犬がフンをしたくなくなるクスリというのがあったりするんでありましょうか。でもそれならわざわざハリガミする必要なさそうだし。
「犬のフンが落ちていると不衛生なので,消毒薬をまきました」
ということであれば,ちょっとイヤミなような気もしますけれども,まぁ一応は穏当なところであります。
「犬のフンが落ちているのは不愉快だ。元凶である犬という生物をこの地区から一掃するために,農薬入りのダンゴをまきます」
となると,ちょっと行き過ぎというか犯罪であります。
「なぜこんなところに犬のフンをさせるんだ? なんだかムシャクシャする。世の中が悪いのか? もうこの世に夢も希望もない。よし。みんな道連れにしてこのナントカ水素とかいうクスリをまいて以下自粛」
となると,救いようのない話になってしまったりするんでした。
オマケ。
ちょっと内容が不穏当になりそうな感じもしないでもないので,最後にほのぼの系を。
まぁ,こういうキャラクターを自由に使っていいのかどうかということまで考えるとなかなかほのぼのしないかもしれないですけれども,そういうのにまだそれほどギスギスしないあたりが,日本のほのぼのではあります。
ということで,この「犬」の絵の上に書かれている文字は「なんかや」なんでした。「なんかや」というのは基本的に「駄菓子屋」をあらわす新潟弁であります。
「駄菓子」という明確なカテゴリーの商品ではなく「なにか」を売っているという「なんかや」というネーミングは,子どもたちのカオスなパラダイスを示すのにうってつけの言葉であるような気がするんでした。
サンドイッチとパンとえんぴつとノートを売っているあたり,純粋な「駄菓子屋」とは言えないかもしれませんけれども,それはそれでなかなかであります。「なんか屋」なわけだし。
ちなみに「なんかやー。あのなんかやなんかやらいやー」と言った場合「なんだかさぁ。あの駄菓子屋,ちょっと嫌だなぁ」という意味の新潟弁になるんでした。
むぅ。見事に犬と関係ないなぁ。
「お願い」は新潟市西区・小新あたり。
「立入禁止」は新潟市西区・小針が丘あたり。
「薬り」は新潟市江南区・亀田本町2あたり。
「なんかや」は新潟市東区・藤見町1あたり。