とびだし物件

とびだし物件



 路地のちょっと奥まったところに立っていたカンバン。少し離れていたので,一瞬「ん。あれは何と書いてあるのか。…目が悪くなってるのか?」と思ってしまったんでした。

 特に3文字目。
 まぁ,他の3文字が「とび○し」であるしカーブミラーがあるという立地から考えれば,3文字目は「だ」であって,全体では「とびだし」と書いてあるのだろうなと想像はつくわけですが。

 そう思って,視線を前に戻して立ち去ろうとしたわけですけれども,二歩ほど歩いたところで「いやあれはホントに『だ』だったか? 『だ』ってあんな字だったか? むしろ漢字っぽくなかったか? でも『出』じゃなかったよな」などと思い,またカンバンを見に戻ったりしたわけでした。

 そしてまたじっくりとカンバンを見てみると「…んー。たしかに『だ』…か? え,いやでも…そうか? まぁ,そう見ようと思えばまぁ…。…でもなぁ」というくらいのレベルの「だ」なんでした。

 さらに,漢字としてみると「岩」のようにも見えるし,「右」のようでもあるし,「山々」と見ることができるような気がするし,ちょっと「冷」にも見えるし…でも,「とび岩し」とか「とび右し」って言われてもなぁ,「とび山々し」ってのもわけわかんないしなぁ,「とび冷し」ってのは夏場はちょっとおいしそうか?  …てなことまで考えてしまうわけでした。

 ということで,これはおそらく45%くらいの確率で「とびだし」と書いてあるんだろうと思われてしまうんでした。
 ただ,やはり「だ」の形がちょっとおかしいんでありますね。それは,最初の横棒にツノが生えているような形になっているからだと思われるんでした。

 これは最初「出」と書こうと思ったのかもしれないでありますね。ただ,ちょっと書き順が特殊な人で,「山」を二つ書くことによって「出」と書く人だったのかもしれない。

 で,「出」と書きだしたんだけれども,最初の「山」を書いた時点で「あ。しまった。小さい子どもにも読めるように全部ひらがなで書くんだった」と思い出し,「うわ。しまった。でもまだここまでなら修正がきくかもしれんな。幸い,『山』も小さめに書いてあるし」などと思ったのかもしれない。
 そして,最初の「山」を生かして「だ」を強引に書いてしまったのかもしれないんでした。

 これは我々もやりがちなことではありますね。修正のきかない書類,たとえば履歴書なんかを書く場合なんかに。

 学歴に「木戸小学校」と書くつもりが「小学校」を意識しすぎて一文字目を「小」と書いてしまった。その時に
「うわ。しまった。間違えた。住所と名前は完璧に書けたんだから,それをまた一から書き直すのはすごくもったいないぞ。時間もかかるし。これはなんとか…『小』は『木』に直せるかもしれないぞ。よし。」
 と思って修正を始めるんだけれども,結局ヘンな形の文字になってその字だけ浮いてしまい,何分かの格闘の結果,しまいには「うがぁっ」と叫びながらその履歴書をぐちゃぐちゃに丸めてしまって「ああ。最初から書き直してた方がよっぽど早かった」と思ったり…とか。
 履歴書に小学校からは書かないか? まぁそれはともかく。

 このカンバンの場合はやはり履歴書なんかよりも素材が貴重だと思われるので,書き直すわけにはいかなかったんでありますね。

 とはいうものの,これは意外と「山々」である可能性も高いでありますね。つまりは,山をふたつ重ねることによって「出」を意味させるということ。
 そういう書き方を好んでする人もいそうだし,そういう字を昔どこかで見たことがあるような気もするし。しかしそういう粋(なのか?)な書き方をするのであれば,もうちょっと達筆で書いてもらいたいところではあるような気がするんでした。こちらの確率が53%くらいでありましょうか。

 それとも,これは大穴をねらって「とび冷し」だったりするんでありましょうか。隣がお墓であるだけに,この辺を歩いていると目に見えない冷気が飛んでくるぞという警告なのか。

 あるいは,鳶のお兄さん御用達の秘密のクールアイテムをこの辺で生産していて,そのカンバンだったりするのか。
 炎天下で働く鳶のお兄さんたちに超人気のアイテム「とび冷し」。なんだか欲しくなってきたぞ。ワークマンあたりで売ってないでありましょうか。

「とび?し」は新潟市西蒲区・押付あたり。