専用物件

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 商店街でもない,住宅の並ぶ細い路地を歩いていると,宝くじ売場が目に入ったわけでした。「宝くじ」の文字は消えかけていますけれども,「的」の絵はまごうかたなき宝くじ売場のそれであります。

 この建物自体はよく見かけるもので,そういう規格があるのかと思うようなものでありますけれども,問題はその場所なんでした。


 これはどうも,堅牢な塀に囲まれた住宅のお庭のようなんでありますね。庭の一角に宝くじ売場があると。そういうお宅のようなんでした。

「宝くじ」の文字が消えかけている,というか消されていることからして実際に営業はしていないと思われるわけですけれども,どういう経緯でここに宝くじ売場があるのかというのは興味深いところであります。

 今は廃業したけれどもこのお宅は以前商店をやっていて,その一隅に宝くじ売場があった…というあたりが一番考えやすいところのような気がするわけでありますけれども,もっとドラマがあってもいいんではあるまいか。

 …ここのご主人は大の宝くじ好きで,はずれる度に「ああ。自分専用の宝くじ売場がうちにあればなぁ…」というのが口癖だったんでした。
 自分のうちに売り場があってもどうなるものでもありませんけれども,そこはやはりファンの考えることであります。

 しかし,高額当選の夢を果たせないままご主人は病の床に伏してしまい,ハズレくじを握り締めながら「ああ。やっぱりダメだったなぁ…」というのを最期の言葉として旅立ってしまったんでした。

 そして奥さんのもとには,ご主人が奥さんに内緒で加入していた,宝くじの高額当選金ほどの生命保険金が残されたんでした。宝くじ三昧と思われたご主人ですけれども,奥さんのことは気にかけていたんでありました。
 奥さんはそのお金を手に感涙にむせびながらも,ある決意を持ち,それを実行に移したんでした。それが…。

 そう,それが,ご主人の夢であった自分専用の宝くじ売場建造だったんでした。手にした保険金の大部分をつかい,庭に作った宝くじ売場。

「あなた…。あなた専用の宝くじ売場ができましたよ…」
 手を合わせて拝む奥さん。その視線の先では,売場に座ったご主人のミイラが微笑んでいて…。

…しまった。感動話にしようと思ったらホラーになってしまった。


 オマケ。
 こちらはエアコンの室外機か何かだと思われるわけですけれども,丁寧に瓦で屋根がふかれているんでした。そのたたずまいがなんともカワイイ。室外機専用屋根。

 この辺,安田地区は安田瓦というのが有名であったような気がしないでもないので,こういった瓦葺のいろんな物が他にもあったりするのかもしれないんでした。

「宝くじ」は阿賀野市(水原)・下条町あたり。
「瓦」は阿賀野市(安田)・保田あたり。

※「宝くじ」に登場する夫婦はもちろん私の妄想であり,実際のお宅の事情とはまったく異なるものであります。たぶん。