させない物件

させない物件



 街行く人の多くは路傍のカンバンなどは横目で一瞬チラリと見るだけであって,それがどういう意図をもったカンバンであるかというのは,一字一句読まずともこれまでの経験で判断するわけなんでした。
 だから極端な話が,犬のフンを禁止したい場合は,紙に「犬・フン」とだけ書いて壁に貼っておけばそれでいいように思えるわけでした。

 しかし,ハリガミの読み手はそれでいいわけですけれども,書き手としてはそうもいかない。色々あれこれと書くことによって,なんとか自分の気持ちというのを伝えたいわけでした。
 その結果,意図は同じでも様々なバリエーションのハリガミというのが誕生するわけでした。そして,今日も上のような物件が生まれているんでありました。

「犬がカベに小便,道路にフンをさせないで下さい 店主より」

 …意図は,十分に伝わっているような気がするわけですが。
 確かに,横目でチラリと見ただけで十分であります。しかし,じっくり読もうとすると,かえってよくわからなくなってしまう。なんというかモヤモヤ感の残ってしまう文章になってしまっているんでした。

 まぁ,国語的に添削すれば何通りかの修正はできるでしょうけれども,ひょっとすると店主さんはこの文章どおりの意図を伝えたかったのかもしれないんでした。その場合,これはどう読み取ればいいんでありましょうか。

 実はこのカベは生物なんでありますね。とはいえそれほど知能が高いわけでもないし動くことができないので,ときどき小便をして道行く人にかけてしまうことがあるんでした。

 また写真には写っていませんけれどもこの前には道路があって,その道路もまた生物であり,知能も高くなく動けないので,ときどきフンをして道行く人々がそれを踏んでしまったりしているんでした。

 そして,その「カベ」と「道路」を飼っているのが「犬」と「猫」なんでした。当然,ペットの糞尿の管理は飼い主がしないといけないわけですけれども,「猫」は気まぐれで,なかなか後始末をしてくれないんでした。
 そこで「店主」は糞尿管理係に「犬」を任命したんでした。それを告知したのが,このカンバンなんでありますね。即ち,

「カベが勝手に小便をしたり,道路がその辺にフンをしたりしないように,犬が責任を持って管理してください」ということ。それが

「犬がカベに小便,道路にフンをさせないでください」

 なんでした。
 んー,これでスッキリ…しないか。


 こちらはごく普通の「広告 貼紙 禁止」のカンバンであります。カンバン自体にはなんらおかしなところはないわけですけれども,その脇にかかっているビニール傘に目が行ってしまったんでした。

 つまりは,これは
「ほう。広告や貼紙は禁止ですか。では,傘はOKなんですね」
という,一休さんのゴリ押しとんち的なレジスタンスなんであろうかと。思ったりしたわけでした。

 と同時に,いや,これは禁止する側の「強調」の意思表示なんではあるまいか。とも思ったわけでした。

 このビニール傘,よく見ると少し曲がっているんでありますね。経験のある方も多いと思いますけれども,傘というのは柄が少しでも曲がっていると非常に開きにくいんでした。

 つまりは,この傘はもうさすことができない。即ち「させない=禁止」ということをあらわしているんではあるまいか。と思ったわけなんでした。江戸の判じ絵のようであります。

 考えすぎでありましょうか。…その通りですね。

「犬が」は新潟市・京王1あたり。
「禁止」は新潟市・水島町あたり。