猫へ物件

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 新潟市の中心部にほど近いさるお宅。新潟市の中心部てのがどこなのかもうひとつ判然としませんが,まぁそれはともかく。このあたりは下町(しもまち)の入口であって,意外と昭和の香りを残すような町並みが残っていたりもするんでした。

 そんな中の一軒。「洋服 直します」というカンバンを掲げたお宅の玄関が開いていて,その開かれた引き戸にはなにやらハリガミが貼ってあるんでした。

 縦長の簡単なハリガミには「足もと気をつけて」の文字。
 それで足もとの方に目をやると,確かに玄関の下のほうには衣装ケースのふたのようなものが置いてあってバリケードのようになっており,それをまたがなければ転んでしまうようなんでした。
 そしてそのバリケードにはまたハリガミが。

「ねこ入るな」
というこれはもう基本中の基本であって,はたして世の中に文字を読める猫がどの程度存在するのか,という問題を考えさせられてしまうハリガミになっているわけなんでした。

「犬入るな」というハリガミであればまだそれは飼い主に対して向けられたメッセージになりうるわけですけれども,単独行動をモットーとする猫に対してはどうなのか。
「ねこ入るな」という文字を見て「ちぇ。ダメにゃのか」と言って素直に立ち去ってくれる猫がいるのかどうかというのは,はなはだ疑問なんでした。

 あるいは逆にこのハリガミは,近所から猫が減ってきているのを嘆いた猫好きの人が「ねこ へるな」という願いを書いたものなんでありましょうか。
 はたまた,この家には妖怪・猫人間が住んでいて,その名前を「るな」というのかもしれない。すなわち,「ねこ人 るな」さんの表札だったりする…ことはないような気がするですね。

 まぁ,バリケードがあることを考えても,おそらくはかなりの高確率で「ねこ 入るな」であろうと思われるわけですけれども,だとしてもちょっと気になる点がひとつ。それは,うしろに控える招き猫なんでした。はっきり見えるのは2体ですけれども,まだ奥にもいそうであります。
 玄関以外にも下窓の開いているところがあって,そこにも

このように猫のぬいぐるみが。猫の侵入を阻止しようとする割には,猫グッズが豊富なようなんでした。猫好きなのか猫嫌いなのか。

 そこはそれ洋服直しなどの商売をされているようだから,招き猫は複数いてもおかしくないような気もするし,置物とはいえ猫を置くことによって外部の猫をけん制しようという意図なのかもしれませんけれども。
 しかし逆に「お。仲間がいるにゃ」と思って猫が入ってきたりはしないんでありましょうか。

 まぁ,猫という動物を好きかどうかということと家に侵入されるということは別の問題であって,猫好きの人が猫の自宅侵入を阻止するというのは特におかしなことではないわけですが。
 逆にそういう区別のできない人が,猫屋敷なんかを作ってしまって周囲に迷惑をかけてしまうのかもしれないし。

 あるいは,猫が好きなことは好きなんだけれども,グッズやキャラクターとしてしか愛せないのかもしれないでありますね。生きている本物の猫はダメな人。
 美少女フィギュアやアイドル写真集は集めるけれども生身の女の人とは話せないとか,そういうようなもんでありましょうか。違うか。

 実際は,家を訪れる人に「このバリケードは猫が家に入ってこないように設けております。」ということをアピールするために,あえて貼られているハリガミであるような気がするわけですけれども,実はホントにこの辺には人語を解する猫が存在するのかもしれないでありますね。普通の猫なら,このくらいの高さの障害物は簡単に飛び越えられるような気がするし。

 もともと猫というのは昔から人語を解する生き物なのかもしれないですけれども,その事実を知っているこの家の人というのも只者ではないかもしれないわけでした。

「ねこ入るな」は新潟市中央区・雪町あたり。