みんなが物件

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 金網フェンスに貼られたハリガミ。
 きまりの悪そうな犬が頭をかいていて,脇にはトグロ状のモノが。と来れば,これはもうそれだけで何のハリガミであるかはわかってしまうわけでした。それだけこの種のハリガミというのは数多くあって,認知されているということなんでした。

 ということで,このハリガミには文字はもはや必要ないわけですけれども,あらためて読んでみるのが路上観察者であります。そこで読んでみると,上に大きく書かれているのは「みんながしています」というお言葉なんでした。

 …してみると,これは当初われわれが思っていた「犬のフン禁止」という意味のハリガミではなくて,
「犬がフンをするのは当たり前ではないですか。動物だもの。人間だってミミズだってオケラだってアメンボだって,みんなみんなフンはするんだから,自然のままにしましょうよ」
という,真・エコロジー宣言のハリガミだったんでありましょうか。

 てなことを考えつつ,それはスゴイぞと思って近寄ると,下の方に横棒で隠れている部分があって,そこを覗き込んでみると「フンの後始末を!」と書かれていたんでした。

 …んー。ちょっとガッカリでありますね。やはり「フン禁止」側のハリガミであったのか。しかし,「フンの後始末」を「みんながしている」というのも素晴らしい地域であるなと思ったりもしてしまうんでした。
 しかも倒置法で「みんながしています フンの後始末を!」と倒置法で力強く書かれていると,説得力も充分であります。

 てなことを考えつつさらによく見てみると,「みんなが」と「しています」の間に微妙な間があることに気づいてしまうんでした。そしてそこには赤い色の文字のような痕跡があって,どうやら「迷惑」と書かれていたらしいんでした。

 …むぅ。結局は「みんなが迷惑しています。 フンの後始末を!」というありきたりのハリガミだったんでありますね。あえて読むほどのものでもなかったようなんでした。

 しかしそれでも,ちょうどいい位置に横棒を渡したり「迷惑」を赤字で書いて褪色するようにしていたりするあたり,やはり真・エコロジー宣言派が巧妙に仕組んだハリガミだったりする可能性も捨てきれないと睨んだりもしてみたいわけでした。



 オマケ。用水路を埋め立てて作られたような遊歩道に立てられている連作カンバン。


「犬立入禁止」ということで,「まずはじゃあ犬の目線で語りかけてみますか」という余裕を感じさせるカンバンであります。とはいえ,ヘンな路上観察者にツッコまれないように「植込みの中へ入れないこと」という飼い主向けの言葉も添えた,ぬかりの無いカンバンなんでした。

 それで(むぅ。これでは物件にはならんな)と思いつつ遊歩道を歩いていくと,またカンバンが。



「植込みにペットを入れるな」という,今度は余裕の感じられない,飼い主に直接向けられたセリフになっております。色使いもエキセントリックであって,感情そのままのようでありますね。
 そして先にはさらに別のカンバンも。


「犬のフン持ち帰れ!」ということで,より具体的直截的感情的になっております。「ハッキリ言ってやらんとわからんようだな!」という気持ちになったんでありましょうか。

 前の「犬立入禁止」と後のふたつは自治会というか町内が異なっているようで,物腰が違っておりますね。書く人の性質による部分が大きいんでしょうけれども,町内全体の性質が違うのかもしれない。どちらに住みたいかとなるとそれはまたひとそれぞれでしょうけれども。

 毎度感じることではありますが,犬やゴミや駐車に関して言わんとしていることは同じなのに,これだけ多様な書き方が存在するというのはスゴイことだと思ったりするんでした。

「みんながしています」は新潟市東区・上木戸1あたり。
「立入禁止」「入れるな」「持ち帰れ」は新潟市中央区・女池1〜近江2あたり。

※文中の「真・エコロジー宣言」というのは私がさきほど流れにまかせて適当に思い浮かべただけの宣言でありますので,賛同したり反対したりしないでおいていただけると幸いであります。