からす物件
からす物件
例によって,ゴミ集積所のハリガミであります。専用の置き場が設置されていないところでは電柱の根方が集積所になりやすいようであって,その電柱には何がしかのハリガミが貼られていることが多いわけでした。
ということで上の物件。いわく。
「お願い。 ザンパンなどの のこり物は 「からす」に見いないよう 紙などに ちつんで出して下さい。」
よいですね。これは。なんだか,ほのぼのとしてくるようであります。
新潟弁の特徴としてあげられるものに「『い』と『え』がはっきりしない」というのがあって,他のゴミ捨て場でも「燃いるゴミ 燃いないゴミ」と書かれているのがたまに見うけられたりするわけですけれども,この物件の場合は「見いないよう」と,ちょっとゴミから離れた動詞であるところがよろしいでありますね。
さらに,故意的に方言を狙って書くとすると「見いねように〜出してくんなせやね」などとなるわけですけれども,このハリガミではそのようにしていないわけで,このカンバン作者は決してウケを狙っていない,つまりはごく標準的な日本語としてこれを書いているんでありますね。そこがまたポイントが高いんでした。
「ちつんで」というのもなかなか。「見いないよう」とあわせて通して読むと,この人の声が聞こえてくるようであります。それどころか,姿が見えてくるようであります。
手ぬぐいを頭にかぶって,小さな柄のついた青っぽいカッポウ着を着てモンペ風のズボンをはいて,少し曲がりかけた腰でにこやかに向こうから歩いてくる姿が。
もともとが板に書かれていて,電柱の丸みに合わて折られているあたりも,プラス1ポイントであります。
次の写真は,細かく書かれているので通常より大きめにしております。
いわく。
***
先日第3ステーションがカラスの大群に襲われて中のゴミがまわりに散らばり大さわぎになりました。
道路がまっ黒になる程カラスが集っていて恐ろしい程だったのです。
その翌日は宗現寺ビルが襲われました。
−困ったものです−
ネットをかぶせる−× 口ばしで突っついて引っぱり出してしまうから
番人が立つか−× これもダメ!朝の主婦は忙しいのに無理!!
では,どうすればいいのでしょう…? ゴミ収集の人にききました
カラスは鼻よりも目で見てエサをさがすからエサを見えない様にする
肉類・魚・油もの−これらのものをゴミに出す時は必ず新聞紙にくるんでから袋に入れ,絶対にそのまま袋に入れない!!
〜この後もしばらく続く
***
ということを,もうこれでもかというくらいに書き綴っているんでした。しかも上手なイラストつき。大変な力作であります。
こちらも,なんだか書いてる人が見えてくるような感じがするでありますね。
ピシッとピンク系のスーツを着て胸にブローチなどしてパーマのきいた薄茶色の髪で少し教育ママっぽいメガネを時折指で直しつつ紅茶を飲みながら文章を書いているような様子が。
いやどんな人が見えるかは人によって異なるでしょうけれども。
しかし,今回のこのふたつの物件を比べてみると,書かれている内容は全く同じなんでありますね。
それが,書き手によってこれだけ違った表現になってしまうということであって,ハリガミのオモシロさというのをあらためて感じてしまうわけなんでした。
「見いないように」は新潟市・天明町あたり。
「困ったものです」は新潟市・東大畑通2あたり。
実は後者は2年半くらい前に撮ってあったもので,場所がハッキリしないけれども多分そのあたり。まだカラスよけの「黄色い袋」なんていうのも無かったであろう頃の物件であります。