純真物件

純真物件



 ふと目にしたハリガミは一部がはげていて全てを読み取ることができなかったわけですけれども,

「  の方へ
   にオシッコ
  させると
  が腐るので
 させないで下さい」

 とのことなんでした。
 欠けた文字の部分は頭の中で補完するしかないわけですけれども,補完しながら「ええっ!?」と思ってしまったわけでした。まさか,そんなことが…。

「ミミズにオシッコをかけるとチ○コが腫れる」というのはよく聞かれることであって,艶笑漫画の類ではわざとミミズにオシッコをかけてソレを大きくしようとするというネタが,必ず一度は出てくるほどであります。いや当てずっぽうですけれども。

 それでまぁ,腫れるくらいであれば一時的なものであってあとから笑い話になりそうですけれども,「腐る」となるともう一大事であります。腐って落ちてしまったらもう…。
 今これを読みながら思わず股間をおさえてしまった殿方も多いんではありますまいか。男性にとってこれは,それほどの恐怖でありますね。純真な男の子にそんな話をしてやったら,トラウマになりそうであります。

 しかし,子どもが小さいころに大人から聞いた話というのは,それが理不尽だったり荒唐無稽であったりしても,意外と長いこと信じ込んでいるものでありますね。

 たとえば,私が小学1年生のとき,初めてのプールの授業の前に先生から聞いた話。
「プールの中にはお薬が入っていて,中でおしっこをすると体のまわりに赤い輪っかができる。それはもうずっと消えないから,誰がおしっこしたかすぐわかるんだぞ」

 これもまぁ今考えればそんなに都合のいい薬品もあるまいと思うし,小学校あがりたての子どもにオシッコさせないための方便だと思われるんでした。けれど,当時その話はずっと頭に残っていて,プールの中でオシッコはするまいと固く誓っていたし,少なくとも小学校卒業までは信じ込んでいたと思われるんでした。

 というか,今でもそれを完全に否定できているわけではなく,頭では「それはウソだ」と思っていても,心の奥底には「ぷーるノ中デおしっこヲスルト体ノマワリガ赤クなるノダ」という見えない鎖のような呪縛があって,プールの中で放尿することをためらわせるんでした。
 いや,呪縛がなくてもそんなことしちゃいけませんけれども。

 その他にも,子どものころ言われていたことというのはなぜかそのタブーをおかすことは出来なくなっていて,夜に口笛を吹かなかったり,夜に爪を切らなかったり,霊柩車や忌中の家の前では親指を隠したり,寝るときに扇風機つけっぱなしにしなかったり,朝の蜘蛛は殺さなかったりするわけでした。

 ことほどさように純真な子どもというのは大人の言うことを信じてしまうものなので,いいかげんなことを言ったり書いたりして子どもをケムに巻くようなことはやめた方がいいと思ったりするわけでした。

 ちなみに今回の物件,柱の脇のほうにも同じハリガミが貼られていて,そちらでは完全な文章になっているんでした。いわく

「飼い主の方へ
 ペットにオシッコ
 をさせると
 柱が腐るので
 させないで下さい」

 ということなんでした。
 そんなわけで,世の純真な男の子たちはこのハリガミを見て恐怖におののく必要はないようなんでありました。

「腐るので」は新潟市中央区・湊町通1ノ町あたり。