路地物件

路地物件


 自転車やバイクはなんとか通れるけれども車は通れないだろうというくらいの路地の入口というのは,路上観察者にとってソソられる空間になっているわけであります。

「ああ。この先はどうなっているんであろうか。何か面白いものが待っているんではあるまいか。でもこの先袋小路で地元住民に誰だコラ視線を送られるんではあるまいか。袋小路でなくてもこの先とんでもないところへつながってたらどうしようか」とか考えてしまって,でも「それもまたよいかな」などと思いつつ入り込んでしまったりするわけでした。

 つまりは,細い路地というのは路上観察者をして進入するのを躊躇させるような,通常は地元民しか通らない,通りすがりの人間からすれば非日常の異空間となっているわけであります。

 そして非日常の異空間であるがゆえにその入口近辺では内外の摩擦が生じるようであって,色々なハリガミが貼られていたりするんでした。

 ということで,ようやく今回の物件であります。


 毎度の事ながらうまく写真が撮れてなくて見えにくいですけれども,このハリガミは「犬のマネのおしっこするな」と書かれているんでした。

 むぅ。「犬のマネのおしっこ」というのはやはりあれでありましょうか。四つん這いになって片足をあげて電柱めがけて放水するという,やってみるとかなり高難度のワザ。いや私もやってみたことはないですけれども。
 やってみたことはないけれども,想像するだに難しそうであります。まず四つん這いになって片足を高く上げた体勢を保つということ自体がタイヘンそうであるし,手が使えないから放水用ホースの方向調整などもできないであろうし。

 また,そういった技術面のみならず精神面においても難易度が高そうであります。
 衣服を着用したままだとビショビショになってしまう恐れがあるので少なくとも下半身については衣服をすべて脱いでおかねばならず,その姿で四つん這いになって片足を高く上げるというのは,相当精神的にタフでないと難しそうなんでした。そういうのを精神的にタフというのかどうか知りませんけれども。

 しかしそれでも,この辺には「犬のマネのおしっこ」をする人が存在するんでありましょうか。それも異空間である路地の魔力なんでありましょうか。
 …まぁ,ハリガミ作者の意図するところは「こんなところで立小便するなどというのは犬畜生程度のヤツだぞ」というヒニクなんでしょうけれども,そう理解してはあげないわけであります。
 いや,ホントに「犬のマネのおしっこ」をする人がいるのかもしれないですが。


 こちらも路地の入口であります。やはりなにやらハリガミが貼ってあるんでした。拡大するとこちら。


「イタズラシナイデ」と大書してあって顔が「?」のナゾの人物がいてセリフが「いれないで〜」とのことで,なにやら鬼畜な事件がこの路地でおこっているんであろうかとちょっと思ってしまったりするわけでした。
 しかしセリフの出所に人はいないし,ナゾの人物の脇に書かれた「すな」というのもよくわからないんでした。

 ということでよく見ると,ハリガミの下には水槽(というか発泡スチロール)があって,その中に金魚が泳いでいるようなんでした。
 つまりは「いれないで〜」のセリフの主は水槽の中の金魚であって,ナゾの人物はそこに砂を入れようとしていると。

 これで納得…したいところではありますけれども,「金魚の水槽に砂を入れる」というのは,ハリガミをしなければならないほど頻繁になされる行為なのかどうか。
 金魚の泳ぐ水槽を見ると「お。金魚だ。砂入れてやれ。げへげへげへ」と思ってしまう人間というのはそんなにいるものなんでありましょうか。私にはなかなか思いつかないイタズラでありますが。

 これもやはり,路地という異空間が呼び起こす不思議行為なのかもしれないわけでした。

「犬のマネ」は新潟市・沼垂東6あたり。
「イタズラ」は新潟市・西湊町通1あたり。