これが?物件

これが?物件


 ゴミ捨て禁止のハリガミというのはハリガミ御三家とも呼べるものであって,街のいたるところにありさまざまな傾向の物件が多いものでありますけれども,上の物件は何かこう上品さというか余裕を感じさせるハリガミであるようなんでした。

「ゴミ捨てないで下さい 結構見えるんです 捨てる アナタが」

 見えているならその場で注意すればよさそうなもんでありますけれども,その辺は上流階級のお嬢様であります。外の見える洋室で朝の紅茶を楽しみながら
「まあ。またあの方があそこにゴミを置いてらっしゃるわ。困りましたこと。」
とつぶやきつつも,争いを好まない箱入りお嬢様の彼女はそれを見守るだけ。そして
「セバスチャン。あの方がいなくなられたら,あのゴミを町内指定の場所に移しておいて頂戴」
「御意」
というような会話を執事のセバスチャンと交わし,また紅茶を楽しんでいたのかもしれないんでした。

 しかし,いつまでもそのままでは「あの方」にとっても好ましくないと思った彼女が意を決して書いたのが,物件のハリガミなんでありますね。
 穏やかに,しかし言いたいことはピシリと言っているハリガミ。これを見ては「あの方」もここにゴミは置けなくなってしまったであろうと思われるんでした。

 かくしてここにはゴミが置かれなくなったわけですけれども,お嬢様はなぜか胸にポッカリと穴があいてしまったような気持ちがするんでした。紅茶を飲んでいても,いつしか視線はハリガミの方へ。
 そんな日が何日か続いた後,ようやくお嬢様は気づくんでした。
「まさか…。恋? これが…?」
 目頭をハンカチでおさえながら,無言でうなずくセバスチャン…。

 いやまぁ,この辺にそんな上流階級のお嬢様とセバスチャンが住んでいるのかどうか私は知りませんけれども。


 こちらは,さる雑居ビルの入り口近くであります。見えているのは植毛カンバンのようであります。これ自体は別におかしなところというのはない(いやオカシイと言えばオカシイあるいはカナシイですが)わけですけれども,そのカンバン脇に何かモサモサしたものがあるんでした。


 背景が雪なものでちょっと見えにくいですけれども,どうやら茶髪三つ編みのカツラのようであるんでした。なぜ,こんなものがこんなところに。なにかのメッセージなんでありましょうか。
 単なるイタズラとしても,わざわざこんなカツラを入手してまでするようなことかどうか。

 まぁその理由はともかく,植毛しようかどうしようか迷いながらここへ歩いて来た人の目に,このカツラはどう映ったでありましょうか。

 ある人は「くそ。バカにされてるのか? やめたやめた」と帰ってしまったかもしれないし,ある人は「うん。やはり髪は大事だ。よし,植毛だ」と思ったかもしれないでありますね。物事の受け取り方は,人それぞれであります。

 あるいは,このカツラを実際に手にしてつけてみた人もいるかもしれない。そして近くにある公衆トイレの鏡を見て
「オレ…いや,アタシ? これが…?」
と言ってそのままそちら方面に目覚めてチャレンジしてしまったりしたかもしれないんでした。

…どうも路上観察ファイルというよりも路上妄想ファイルであるなぁ。

「見えるんです」は新潟市・中山1あたり。
「チャレンジ」は新潟市・弁天1あたり。